福島第一原発で事故対応にあたった最高幹部の一人が取材に応じた。最高幹部は地震直後からメモを書き残していた。そのメモをもとに、当時を振り返った。
突然、ゴゴッと大きな音が聞こえてきた。余震なのかと思った。すると、しばらくして、作業員2~3人があわてて飛び込んできて、「津波がきている」と叫んだ。
部屋にいた面々は、駆け足でおりて、建物の外に出て、海を見下ろした。高く大きな津波が原子力発電所をのみこもうとしていた。みるみるうちに、何台もの車が流されていき、大きなタンクのようなものが波間に浮いているのが見えた。
とんでもないことが起きるんじゃないか。体が震えた。
室内には怒号に似た声が飛び交った。
「1号機、水位がわからないぞ」「2号機もだめだっ」「電源トリップ(停止)」「発電機がやられた」「2号機、再起動したが、トリップで注水できません」
当時のメモにはこうある。
〈血の気、ひく〉
頭によぎったのは、「全交流電源喪失=ブラックアウト」だった。
*今西憲之+週刊朝日取材班著
より抜粋