3月12日から16日まで、米ハーバード大学の大学院ケネディスクールに通う23人の学生が東日本大震災の実態を知るため被災地を訪れた。"未来のエリート"となる彼らが見た、被災国日本。そこには世界で知られていない日本の姿があった。

 被災地の実態を知るため、まず訪れたのは、一関の酒蔵「世嬉の一」。被災した薄暗い酒蔵の中は、シンと冷えている。その中で、佐藤航常務(40)は自ら撮影した震災後の酒蔵の写真などを見せながら、この1年間の様子や、仲間と取り組んでいる復興に向けた活動などについて説明した。

 ルーマニア人のストロイカ・ポパさん(24)は、被災状況がより厳しかったライバルの酒蔵を援助した話に感銘を受けたという。

「日本人は非常に高潔だと思いました。普通は競合先が破綻すればハッピーだと思うものなのに、自然災害を逆手に取ることなく、商売だけでフェアに戦おうとする姿勢は凄いですね」

「共産国だったルーマニアは資本主義になり、人をだますなど規律の面で問題が出てきました。日本は経済発展しているのに、規律が保たれていることに驚きました」(ポパさん)

 翌日、彼らは内陸部から沿岸部を訪れた。そして到着したのが、岩手県陸前高田市の旧市役所前。

「意外に遠いんだな」

 クロアチア人のマリオ・シュクンサさん(40)は沿岸部から高台を眺め、そうつぶやいた。

「なぜもっと早く高台に逃げなかったのか。日本に来る前はそう思っていました。しかし、実際に来てみると、思った以上に高台は遠かった。同じことが別の国で起きたら、もっと多くの命を落としていたでしょうね」(シュクンサさん)

 震災後、世界中のメディアが競って東北の惨状やフクシマの危機を伝えた。だが、シュクンサさんは現地を訪れ、被災の状況を知っているようで知らなかったことに気付いたという。

 世界に知られているようで知られていない日本。国際的な地位が低下するなか、世界に向けて日本の存在をアピールすることは重要だ。こうした小さな取り組みの積み重ねが、世界に日本の理解者を増やすことになる。

※週刊朝日 2012年4月6日号