東京電力福島第一原発から半径20キロ圏の警戒区域内。ここには約7万8千人が暮らしていた。そして5800匹以上の犬と、さらに多くのや家畜がいた。そんな動物たちに今、目を覆いたくなる現実が訪れていると、昨年3月末から、これまでに計40回以上、警戒区域に入り、猫や犬を中心に保護してきたカメラマンの太田康介さんは語る。

 太田さんは昨年夏以降、餓死した動物も多く目にしてきた。犬や猫を保護しても、引き取り先のシェルターはすでにいっぱい。警戒区域内に残したほうがいいのでは、と悩むこともある。

「まだ生きている動物がいるのは、民間のボランティアが定期的に餌をやっているから。しかも違法で警戒区域に入ってね。彼らがいなかったら、とっくに全滅していますよ」(太田さん)

 家畜も悲惨だ。

「実は、死んでいる子に対しては、楽になれてよかったね、という気持ちがあります。かわいそうなのは、今苦しみながら生きている子。それを最初に見たのは牛でした」

 初めて牛舎に行ったのは昨年4月。近づくと牛がモウモウと一斉に鳴きだした。糞尿や死体の中で、生きている牛が50頭ほどいた。

「人間が来ると餌をもらえると思うんでしょう。他のボランティアが倉庫で餌を見つけ、3時間くらい、水とわらをやり続けました」

 3回ほど通ったが、警戒区域に指定され足が遠のいた。6月、牛舎に行くと骨と皮だけがあった。

「この期に及んで原発推進を掲げる人は、一度20キロ圏内に行ってほしい。この状況を見るべきです」

 と太田さんは話す。目を覆いたくなる現実。しかしそれは、紛れもなく人間が招いた事態。知りたくない、ではすまされない。

※週刊朝日 2012年3月23日号