震災から1年。もうすぐ東北に春がやってくる。東北を代表する名桜を写真家・堀内孝さんが紹介してくれた。堀内さんはこれらの場所に昨年または一昨年に来訪している。「当然のことなのに、特別に思える。もうすぐほころぶ桜はきっと美しい」と堀内さんは話す。

■亀ケ森一本桜(岩手県宮古市)
宮古市街から山間の道を車で45分ほど走ると、シラカバ林に囲まれた標高約800メートルの亀ケ森牧地に着く。その一角に立つのが、このオオヤマザクラだ。樹高は約6メートルとそれほど高くないが、枝張りが15メートルもあり、見応えがある。昨年は5月中旬にようやく満開を迎えると、沢山の人が訪れ、思い思いに桜を見上げていた。

■鹽竈(しおがま)桜(宮城県塩釜市)
陸奥国一宮として古い歴史を持つ鹽竈神社に咲き、社紋にもなっているサトザクラ系ヤエザクラ。花は薄桃色で手まりのような形をしており、花弁が50枚近くあるという。境内には約60本の鹽竈桜があり、うち27本が国の天然記念物に指定されている。一森山にある境内からは、塩釜市街や塩釜港がくっきりと見渡せた。

■水月観音堂桜(福島県郡山市)
郡山市東部の中田町には、シダレザクラが多く咲く。常林寺境内にあるのが、このエドヒガン系ベニシダレザクラ。境内の水月観音堂のそばに立つことから、その名がついた。地元の言い伝えによると、この桜は95年前、福島県三春市の「三春の滝桜」から取った種をまき、育った13本の中の1本を植えたものだという。

■合戦場のしだれ桜(福島県二本松市)
平安時代の古合戦場とされる場所に咲く、エドヒガン系ベニシダレザクラ。1本に見えるが、2本の木からなる。樹齢は約170年で、高さ18メートル、枝張りは東西20.2メートル、南北13.9メートルを誇る。「三春の滝桜」の子孫といわれ、豪快に流れ落ちるように咲く姿は滝桜をほうふつさせる。訪れた人は皆、ため息を漏らしていた。

■上坊一本桜(岩手県八幡平市)
雪が解けて春になると、山頂付近の岩肌に鷲の姿が浮かび上がるという岩手山。その雄姿をバックに咲くのが上坊牧野の一本桜だ。種類はこの辺りでは珍しいカスミザクラ。名前の通り、霞のような淡く白い花をいっぱいに咲かせていた。岩手山から吹き下ろす風が強いため、例年3日ほどで散ってしまうという。

※週刊朝日 2012年3月23日号