福島第一原発の事故によって自主的に避難をした人たちへの東京電力による賠償が始まろうとしている。請求開始に先立ち、東電が委託したテレマーケティング会社が大量の電話オペレーターを募集していた。そのなかのひとりであるYさん(50代)が、常識を疑いたくなるような対応マニュアルを明かしてくれた。

 研修初日。Yさんたちが集められたのは新宿副都心にそびえる高層ビル。ビルの42階から45階を貸し切り、1千人以上の研修生が集められているようだった。

 肝心の研修内容だが、Yさんにとってはなんとも違和感のあるものだった。説明者はまず、こう言った。

「皆さんの業務は、困っている人たちを救うことじゃない。送付した書類の問い合わせに答えることです」

 東電の誰が考えたのかは不明だが、電話対応マニュアルは微細な部分まで考えられている。

「まず電話の相手を刺激する言葉を使うなと教えられました。いわゆるNGワードで、ご丁寧に言い換え例が明記されているものもありました」(Yさん)

 Yさんが教えられた禁止用語の例を紹介する。

×原発→○原子力発電所(原爆をイメージさせる)
×放射能→○放射線
×放射線を浴びる(危険なイメージだから)
×お客様→○名前かご相談者様(福島の人は東北電力の電気を使っているから)
×書類の審査中→○書類の確認中(上から目線だから)

 そしておなじみになった「想定外」という言葉もNGワードで、「積み上げた知見の甘さが引き起こしたものでございます」と言い換えるよう指示された。

 電話口で怒りが収まらない相手に対してどうするか。正解はこうだ。

「相手が興奮したら『少々お待ちくださいませ』と言って、電話の保留ボタンを押すんです」(Yさん)

※週刊朝日 2012年3月9日号