2月14日、日本銀行は国債買い入れ増のほかに、消費者物価指数(CPI)の前年比上昇を当面1%にするというインフレ目標の明確化を発表した。しかし、狂乱経済と言われたバブルのまっただ中、1986~88年でもCPIの上昇率は1%を割っている。この「CPI数値を基準とするインフレ目標」を「伝説のトレーダー」藤巻健史氏は「愚かな発想」だと指摘する。

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 経済の実態に強く影響を及ぼすのは、株や不動産といった資産価格であって、CPIではない。バブル時の狂乱経済は土地や株を持っていた人が急に金持ちになったつもりになって消費を増やしたのが原因なのだ。資産効果という。バブル崩壊後、澄田智・元日銀総裁がインタビューで「土地や株、それに書画や骨董といった資産の価格だけが急激に上昇している意味を早く見抜けなかったことについては、私がその責めを負わなければならない」と語っているくらいだ。

「インフレ目標」を設定するのならCPIではなく、資産価格を基準として資産価格を上げることに集中すべきなのだ。そのためには税制の変更と円安に尽きる。2001年7月の日銀の金融政策決定会合で、審議委員の須田美矢子氏が「円安が進み、それが物価下落の歯止めになることを期待している」と発言されている。その通り!なのだ。円安は資産価格にも強烈に作用する。

 私が1990年代後半から提案し続けている「円安政策」の一つは「日銀による外貨資産購入」案である。金融緩和にも資する。この案は「プロパガンダ」や新聞への寄稿、さらには2002年1月に出版した拙著の中でも詳しく提案してきた。いまこそ、この案を真剣に考えるべき時期だ。

※週刊朝日 2012年3月2日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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