福島原発事故あとの津波対策として、どこの電力会社も、ほぼ共通して「予備電源の電源車を高台に配置する」、「防波壁を設置する」を挙げている。しかし、原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏がその二つの対策は「無駄だ」と非難する。

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 昨年の東日本大震災で岩手県を襲った津波は、重さが推定140トンにも達する巨岩を、数百メートル離れた川岸から陸上に運んだのである。これは、人間が3人か4人つながって寝たほどの長さで、人間2人分の高さを持った巨岩である。こんなものが激突してくるのだ。岩石だけではなく、巨木も、自動車も、船も、家屋も、濁流となって、電源のケーブルに激突してくる。もしケーブルが地下に埋設してあっても、地震では地盤が大破壊されるから、電源ケーブルが大丈夫であるはずはない。ケーブルが切断されても、電気が送られるのか? 高台に置いた電源車は、がけ崩れにも遭わないのか? こんな人間の常識的判断力さえ持ち合わせていないのが、すべての電力会社である。

 防波壁を設置する対策については、講演会場でその電力会社の設計図を見せると、みな大笑いする。何しろ、電力会社が計画している防波壁とは、しっかりした防潮堤ではなく、家の塀と同じような代物だからだ。東日本大震災で岩手県を襲った津波では、300トンを超える頑丈な防潮堤さえもが、みな流されてしまったというのに、塀を建てて津波を防げると考えているのだ。ここまでくればジョークだと思いたいが、それが真剣な電力会社の津波対策だ。若狭の原発群なども、浜岡原発も、みな同じである。人間の常識的判断力を失った電力会社の哀れな姿である。

 そして、こうした対策が実行に移された結果、何が起こっているだろう。そう、電気料金の値上げ問題である。新聞を読むと、今年度の発電コストが高くなった原因は、「原発を動かせなくなり、火力発電の燃料を購入しなければならないため」ということしか書かれていないが、冗談ではない。先に挙げたような15歳の子供でも分るような、対策にならない対策に莫大な金を出費して、相変らずトンデモナイ無駄なコストを食っているのが、停止中の原子力発電所なのだ。

※週刊朝日 2012年2月24日号