職場にはびこるパワーハラスメント。取引先への過剰な接待や宴会芸の強要も立派なパワハラになるという。厚生労働省が防止策の検討を進めているが、パワハラの被害者にも加害者にもならずに済むにはどうすればいいのか。上司が処分された事例をもとに話しをすすめよう。

 韓国の女性グループ「KARA」の歌に合わせて、若い女性からいい年をしたオジサマまでがお尻をフリフリ……。昨年、職場の忘年会や歓送迎会などでよく見かけた一コマだ。

 しかし、エンターテインメント業界で働く、とある部長は、この宴会芸が原因で処分された。

 この会社は業界内でも"軽い"社風で知られ、飲み会では余興が恒例になっている。KARAやAKB48を振り付きで歌うのは当たり前で、なかには際どい下着1枚でDJ OZMAを踊る男性社員も。昨年秋に開かれた歓送迎会でも、女性社員はKARAを踊ることになった。

 しかし――。

「異動してきたばかりの女性社員が『余興を強要された』と、社内の相談窓口に訴えたんです。会社側はパワーハラスメントにあたると判断し、女性の上司である部長は減給処分を受けたようです」(同社の関係者)

 この関係者は、「お堅い金融機関ならともかく、エンタメ業界は人を楽しませてナンボでしょ。しかも、際どい服装をしろなどとムチャなことも言ってないのに……」と驚くが、これは立派なパワハラだ。

 厚生労働省が有識者を集めて立ち上げたワーキンググループが、1月末にまとめたパワーハラスメントの定義と種類は以下のとおり。

■定義
同じ職場で働くものに対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させること

■種類
【1】身体的な攻撃(暴行・傷害)
【2】精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
【3】人間関係からの切り離し(隔離・仲間はずし・無視)
【4】過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
【5】過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
【6】個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 宴会芸の強要は【2】の精神的な攻撃や【4】の過大な要求とみなされる可能性が高い。恐ろしいのは、冒頭の企業のように宴会芸が「慣例」であっても、上司は免責されないことだ。

※週刊朝日 2012年2月24日号