落語家の桂三枝さんは、生後1年足らずで父が病死、母ひとり子ひとりの幼少期を送った。母は料理旅館の住み込み仲居として働いていたため、会えるのは週末だけだったそうだ。母は、三枝さんに服を買い与えたり、御馳走を食べさせたりと甘やかし放題だったが、こと食事のときは厳しかったという。

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 箸の持ち方とか食べ方にうるさく、箸箱で手をぶったたかれたこともあります。勤め先で偉い人たちが食事するのをいつも見ていたからでしょうが、母の口癖は「大きいなって、天皇陛下と食事することになるかわからへんねんから、ちゃんと食べなさい」(笑)。
 
 子どもの僕は、何のこっちゃと思いながら聞いてましたが、2006年に紫綬褒章をいただき、招待された園遊会で天皇陛下に直接お声をかけていただいたんです。そのとき、母の言葉がよみがえってきて、オフクロすごいなぁと、改めて思いましたね。

※週刊朝日2012年2月17日号