日本には創業100年を超える企業が2万社以上も存在する。「世界最古」の企業をはじめ長い歴史を経ても、伝統が確かに息づく老舗を紹介する。

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●本家尾張屋 1465年創業
京都・烏丸御池近くの蕎麦店。のれんには、江戸時代に宮中に出入りしていたことを示す"御用蕎麦司"の文字がある。和菓子からスタートした本家尾張屋は、今は老舗の名店として多くの人が足繁く通う。蕎麦粉は北海道・音威子府(おといねっぷ)産、だしは北海道利尻昆布や鯖節などを調合。そして京都の地下水が欠かせない。「京都の水があるお陰で、今もこうして商売ができます」と、15代稲岡傅左衛門さんは話す。

●永楽屋 1615年創業
本店に大きく掲げられた永楽通過寶の紋は、戦国時代に織田信長から命を受けて出陣した先祖の直垂(ひたたれ)に入っていたことに端を発する。それが織物商「永楽屋 細辻伊兵衛商店」という名の由来となった。一時は経営危機に見舞われたが、14代細辻伊兵衛さんが明治~昭和初期の同社の手ぬぐいを復刻させたり、オリジナルブランドの新作を発表したりして、大きな注目を集めた。京都の伝統に裏打ちされた、遊び心あふれる手ぬぐいが人々の心をつかむ。

●金剛組 578年創業
大阪・四天王寺のお膝元にある金剛組は、"世界最古の企業"。朝鮮半島の百済から招かれた工匠の一人、金剛重光を初代とし、社寺専門の建設会社として今に至る。相談役の39代金剛利隆さんは、毎年1月11日に四天王寺で行われる「手斧(ちょんな)始め式」に寺の正大工職として出仕する。この儀式はその年の工事の安全を祈るもので、昨年、大阪市の無形文化財に指定された。

●通圓 1160年創業
京都・宇治橋のたもとにある一軒の茶屋。24代目の通円祐介さんが笑顔を浮かべながら、いれたての宇治茶をすすめている。さかのぼること平安末期、宇治橋の橋守として始まり、橋を往来する人々に無病息災を願って茶を振る舞うようになった通圓家。店内には一休和尚の手による初代通圓の木像や、800年前に使われていた釜、古い茶壺などが並ぶ。香り高い宇治茶を味わっていると、この店が重ねてきた時の重みも伝わってくるようだ。

●明珍本舗 室町時代創業
薄暗い工房には、ほのかに鉄のにおいが漂い、カンカンという音だけが響いていた。火箸などを製造する明珍本舗で毎日繰り返される光景だ。代々甲冑(かっちゅう)を作る職人だった明珍家。時代の流れとともに甲冑の需要は消えたが、その技術を決して絶やしてはならないと、火箸作りに精を出した。戦後、火鉢を使う家庭が減ったため、52代明珍宗理さんは火箸を風鈴に仕立てることを思いつく。金槌でたたき続けたオレンジ色の鉄は、やがて澄んだ音色を響かせるようになる。

※週刊朝日 2012年2月17日号