空気が読めない男は多々存在する。しかし、接客のプロであるホストでさえも空気が読めない男が多いらしい。漫画家の倉田真由美がその時のことを振り返る。

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「ちょっと気になる女性がいる」という年下の男友だちSくんと、彼女を呼んで飲み会をすることになった。

 居酒屋の個室に集まったのは、件の女性Uさんと私とSくん、そして盛り上げ隊長として呼ばれた元ホストのRくんの4人である。

「引く手あまたで、大変なんじゃないですか」
「子供の頃からずっとモテてきた人って感じだよね」

 男2人でUさんを褒めそやすが、Uさんは、「そんなことないですよ」「モテたことないです」とひたすら否定するばかり。

 つまらないので私が話題を変えようと、「どんな人が好みなの?」と聞くと、「さあ、どうなんでしょうね。あんまり好みってないのかも」「じゃあ、今まで付き合ったのはどんな人だったの? 前の彼氏とか」「う~ん、どうなのかな」とまったく具体的な答えが出てこない......。

 そんな彼女の堅いガードの殻を破ろうと、元ホストのRくんは張り切った。「今はモテそうだけど、小学校、中学校はモテなかったんじゃない?」「明るく見えるけど、実は内にこもるタイプでしょ」

褒めが効かなかったので、逆から攻めているようだ。しかし、この手の攻め方は一歩間違うと痛いことになる。案の定、彼はやってしまった。

「あれ? 箸の持ち方がちょっと変だね。もしかして、鍵っ子だった?」

 一瞬場が凍った。初対面の女性に、箸の持ち方の指摘......。しかも、「鍵っ子=両親が共働き=きちんと躾をしてもらっていない」というむちゃくちゃな文脈らしい。

 ホストって接客のプロのはずだけど、実際はこういう場が読めない男多いんだよなあ。

週刊朝日 2012年2月17日号