3・11以前に福島原発とそれを抱える周辺地域の関係性を、現地に足しげく通って調査し、現在の一方的な「脱原発」の空気に疑義を呈したことで注目を浴びた社会学者の開沼博。彼は研究活動の一方でIT業界で働いたり、雑誌のライターとしてアングラ世界への取材を精力的に行うなど、実務経験のなかで徹底的な「現場主義」を培ってきた。そんな彼がその目で確かめた「現場」に転がる現実を語った。

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 フィリピンパブに現地女性を斡旋するブローカーを取材したことがあるんですが、まず、フリーターの日本人男性と、現地の女性を偽装結婚させて入国させるわけです。男性はその書類を偽装しに現地へ行くのに「初の海外だ」なんて大喜びで、月3万円の報酬で満足していて、女性は日本に大きな夢を抱いている。一見、下世話なんですけど、そこからは外国人を取り巻く法制度の不備、先進国と途上国、ワーキングプアなど多くの戦後社会が積み残した問題が見えてきます。

 大学で勉強だけしていても、その現実には絶対に近づけない。現場から逃げ、現実を知らないのに、知ったかのように「~であるべきだ」なんてキレイ事を言って、それをキレイ事だと感じてすらいない「知識人」が多くいる。そんな言葉が現場に届くわけがない。

週刊朝日 2012年2月17日号