国内の選挙で取りざたされている「一票の格差」問題。これが今、相撲の世界でも起きている。

 1月30日に行われた日本相撲協会の理事選。かつては、一門内で基礎票(親方など評議員の数)にほぼ比例した人数の理事候補を調整し、本番は「投票なし」で決まっていた。

 それが今回、定数10に対して史上最多の12人が出馬。基礎票と理事の数を比較して、一票が最も軽いのは立浪一門。"一票の格差"があるため、調整がつかず、一門が所持しているのが18票なのに対し、3人が立候補。当選には10票程度が必要であるため、立浪一門は厳しい戦いを強いられることとなった。

 もともと、一門の予備選では春日山親方が選ばれたが、しかしここで友綱親方から「他の一門から2票切り崩して10票にすれば、8票がムダにならないじゃないか」という意見が出た。目論見通りにいったとしても、一門から出られるのは春日山親方とあと一つ。それなのに、友綱親方と伊勢ケ浜親方の2人が立候補してしまった。

 実はこの騒動、2年前の改選に端を発している。このとき友綱親方は理事のイスを伊勢ケ浜親方にゆずることになっていた。ところが、貴乃花が立候補することになると、「立浪一門の票が貴乃花に流れる」と話をナシにしてしまったのだ。そのときのしこりが、今回の揉め事に至る、という。

 しかし、今回の理事選もふたを開けてみると、友綱親方が自分に入ると読んでいた1票が貴乃花に流れたという。結局、7票しかなくて落選するのではとみられていた九重親方にすら1票差で負ける結果となった。

 このことについてベテラン相撲記者は語る。

「"造反"だと言われていますが、実質的には2年前の理事選のときに一門という概念は崩壊していると思います。今回の立浪の件は、その後の内輪もが表面化したわけで、友綱さんの負けは、それでも一門を信じたのが甘かったというか......」

 かくして誕生した新理事10人。理事長には北の湖親方が復帰し、注目の貴乃花親方は大阪場所の担当部長に就いた。一門崩壊の引き金を引いた立場で、審判部長からの異動だから左遷人事にも見えるが、前出のベテラン相撲記者は次のように語る。

「配置の妙、です。昨年、不祥事を受けて中止になっているわけで、まずは『ご迷惑をおかけして......』という挨拶回り。大阪の人にヘソを曲げられると大変だから、責任重大なんです。そこに"貴乃花"という名前は利きますからね」

※週刊朝日 2012年2月17日号