予備校関係者も、生徒への悪影響を懸念する。「大学卒業までの期間が延びるから、1浪はともかく、2浪は今まで以上にしづらい。例えば、浪人するケースが多い医学部志望の生徒は、今まで以上に焦るのではないでしょうか。大学全体で一律に秋入学と決めるのではなく、学部ごとに将来の進路の傾向を見極めて整備すべきです」(愛知県の予備校職員)

 また、卒業時期と企業の採用時期のずれについても「就職活動の現場に余計な混乱が生じる」とか「通年採用や、数回にわけて採用している大手企業もあるが、官公庁などは今も4月採用が多い」といった懸念が、教育関係者の間では広がっている。

 今回公表された東大の検討機関の中間報告でも、ギャップタームをどう活用するか、明確な方向性は固まっていない。今後は、こうした現場の声を一つひとつ丁寧に検討していく必要がある。

 さらに、入学時期だけでなく、大学の「質」の充実そのものが欠かせない。

 東大出身で教育問題にも詳しい精神科医の和田秀樹氏は、秋入学の方向性は評価をしつつも、こう疑問を呈する。「外形的なシステムを変えるだけで、海外から優秀な学生を呼び込めるかというと、甘いと思います。海外では教授になってからが研究のスタートですが、日本では教授になることが目的化していて、肩書を手に入れたとたん『名誉職』として居座ってしまう人も多い。そんな権威は国内でしか通用しません。教授の任期制を導入して活性化したり、今が旬だという若手の教授をそろえるなど、海外の学生に魅力的なシステムをしっかり作らないと、逆に競争原理にさらされて恥をかくことになりかねません」

 カタチを変えることは重要だが、それをジャンプ台にして飛躍できるかどうかは、そこに携わる人や組織の力量にかかっている。

 東大の意欲的な試みが、日本復活へ向けた大きな一歩になるかどうか。本当の勝負はこれからだ。

(本誌・國府田英之、岡野彩子)

週刊朝日