いったい、どこまで女が行動しなきゃいけない時代というのか。

「わたしと赤ちゃん作らない?」なんてアイドルが語りかけるCMに、首相までも「少子化問題に歯止めを」と賛同するニッポン。そんななか、「彼女いらない」独身男性が3割弱というニュースが波紋を呼んだ。

「どうせ最近の"草食男子"ってヤツが女を口説けないでフニャフニャしてるからこんなことになるんだろ」

 バブル期に青春を謳歌し、夜な夜な東京・歌舞伎町でナンパしていたと豪語するKデスク(40代、既婚)がビール片手に吐き捨てた。その夜、あちこちでほろ酔いオジサマが似たような会話を交わしたに違いない。

 ここ数年の「草食男子」に「肉食女子」というありがたくない流行……。アラサーの私としては、草食男子に説教のひとつでもしたくなり、某名門私立の大学院生(24)を問い詰めた。

「君って草食男子?」

 細身で白い肌。童顔にメガネの、いかにもな彼だが、意外な返事がきた。

「あぁ、よく言われますけど違います。ホント、迷惑してるんですよ」

 聞けば彼女もいるという。それなら周りに草食はいないのかと尋ねると、「いませんね。"ゆとり"呼ばわりと一緒で、勝手な押し付けですよ」とさらり。あれ?

 そこで、都内の大学職員(30代)に最近の学生の恋愛事情を聞いてみたが、ここでも"草食"の2文字はなかなか出ない。

「学生から恋愛相談はよく受けますが、内容は10年前とそう変わらないです」

 あえて時代の変化を挙げるとすれば、「ソーシャルメディア」だという。

「出会いが少なかった運動部の男子も、フェイスブックで女の子からメッセージをもらって、『一回ご飯行って、その後ヤっちゃった』なんて話もよく聞きますし、僕らの頃より、よろしくやってますよ(笑い)」

 ならば今回の調査結果はいったいどういうことなのか。早稲田大学で恋愛学を教える森川友義(とものり)教授(55)を訪ねた。現れたのは、ダンディーで、スマートな先生。恋愛学を教えるだけあって、さすがです。

 さっそく、最近の草食男子について尋ねると、

「"草食"という言葉は、実態を表すのにふさわしくないんです。遺伝子が変化したわけでもないから、草食男子が急に生まれるわけがないですよね」

 それならどうして「彼女いらない」男性が3割近くもいたのか。

「男性は1時間に100万以上の精子が自動的につくられていて、若い人は2~3日に1度は出したい身体構造になっている。つまりは根本的な欲求として彼女が欲しいので、『いらない』というのはウソになる」

 森川教授は、この結果は心理学用語の「認知不協和」で説明できるという。認知不協和は、あるべき自分と、実際の自分が合致しない場合、理由を自分以外のせいにして心の矛盾や不安を解消する状況だ。

「つまり、彼女が欲しいけれどできない場合、解消する方法として、『いなくていい』と答えるのです」

 森川教授によると、恋愛を成就するために投資しなければならないものは、
(1)時間
(2)エネルギー
(3)カネ、の三つだと言う。

「好きな人にはマメに絵文字のメールをしたりしてエネルギーがいるし、デートをすれば時間もカネも使う。経済的にこれだけ不況になってしまうと、この投資する要素を潤沢に持っている人は少ない。だから一部の年収の高い男たちに複数の女性が群がるのです」

 愛はお金じゃない!と言いたいところだが、森川教授はこんな話をしてくれた。

(1)フリーターで年収が100万円のイチローまたは水嶋ヒロ(好きなほう)

(2)弁護士で年収が2千万円の出川哲朗または江頭2:50(好きではないほう)

のうち、結婚するならどちらの男性かと500人の女子学生に聞いたところ、65%が(2)を選んだという。

「女性は顔でなく年収で相手を選んでいる傍証です」

 女性は常に自分が最低ラインでそれよりも下を嫌がる「ベースライン理論」がある、と森川教授は言う。

「3高で考えると、自分より背が高く、年収も学歴も上であってほしい。となると、女性が経済進出した結果、女性が満足できる男性が減っているということ」

◆考え方次第ではよりどりみどり◆

 経済だけでなく、政治も恋愛に大きな影響を与える。森川教授はこう話す。

「少子高齢化で、社会保障の財源がなく、定年を延長するという議論がありますが、定年を延長すれば若者の雇用が減る。財政赤字も含め、しわ寄せは常に若者です。このシステムをなんとか変えなければ、恋愛どころでなくなるのです」

 財政危機でギリシャやスペインが火を噴き、最終的に世界恐慌に陥れば、もっと事態は悪化するという。

 今の日本では独身男性が草食だから彼女ができないわけでなく、世の中が恋愛しにくい仕組みだからこそ、彼女ができないということらしい。"草食"の流行は、オジサマ世代の「最近の若者は......」話のようなものだったのかもしれない。

 一方で、今回の調査結果は、当事者にとって同じ年代で結婚している人も少なければ、恋人がいる人も少ないということで、
「よりどりみどりじゃないですか」
 と森川教授。事態は憂うばかりではないらしい。

「先に述べた恋愛の投資要素三つのうち、カネ以外をどう有効活用するかです。例えばデートで5千円を払うとしても、時間があってリサーチすればおいしいところにも行けるわけです」

 加えて、かつては機能していたお見合いの代わりとして、市町村主催のお見合いや「街コン」が注目だという。

「地方の少子高齢化は逼迫(ひっぱく)しているので、地方の税金を使ってまでも市町村主催のお見合いなどをやることに私は賛成です。税金を投入しない方法が"街コン"。経済と恋愛の活性化にいいシステムで、2012年の主流になると思います」

"街コン"といえば、発祥の宇都宮「宮コン」に記者も婚活として参加したことがある(本誌8月12日号)。確かに、効率的な出会いの場で、結婚したカップルもいると聞いた。

 もうすぐクリスマス。まずは街コン情報でも探しますか。 

週刊朝日