11月3日、秋篠宮ご夫妻の長男、悠仁(ひさひと)さまの「着袴(ちゃっこ)の儀」が行われた。一般の七五三にあたる行事で、お子さまが5歳になるころ、健やかな成長を祈る皇室の伝統行事である。

 夜には秋篠宮邸で、悠仁さまのお祝いの会も開かれた。天皇、皇后両陛下も訪れる予定だったが、天皇陛下は午後から発熱したため、姿を見せたのは美智子さまだけだった。

「悠仁さまがお生まれになってから、両陛下は悠仁さまと一緒にご静養の時間を過ごすことが多い。それなのに悠仁さまのお祝いの会を欠席したというのは、よほど身体がおつらかったのでしょう」(宮内庁関係者)

 天皇陛下は、翌4日からの文化勲章受章者らとの茶会や、デンマーク王子夫妻との会見と式典への出席も取りやめ、6日、東大病院に入院した。「これまでの疲労が相当蓄積され、抵抗力が低下しているため」(宮内庁)だという。

 症状が落ち着いたため、11日に退院の予定だったが、10日夜に再び悪化したため延期された。

 疲労の一因とみられるのが公務の多さだ。昨年1年間の数字を見ると、閣議決定された上奏書類に署名、押印する執務は約900件▽拝謁やご会見、茶会、午餐、晩餐などの行事は約240回▽訪れた各国の王族や大統領など賓客は36人▽外国元首にあてた親電は約420件--となっている。

 加えて、3月の東日本大震災後はたびたび被災地や避難所を訪ね、膝をついて被災者を見舞っている。

 今年10月の日程を見ても公務や祭祀がない日は、8日しかない(左ページの表)。しかも、空欄になっている日も完全な休みではない。

 私的な生活を大切にする皇太子ご一家の場合は、ご本人が呼ばない限り、お仕えする人間がうかがうことはできない。だが、両陛下をよく知る人物は「陛下は違うのです」と言う。

「私的なお住まいである御所でも、執務をなさることがある。予定される公務について陛下に確認すべきことは山積みですから、御所でお勤めする侍従などの側近が『お時間をいただいてよろしいですか』と、陛下のもとにうかがう。時間の許す限り、陛下はお断りにならないので、結果的に、常にお仕事をなさってしまうのです」

◆関係者が恐れる心臓の"リスク"◆

 今回、天皇陛下が宮内庁病院ではなく東大病院に入院したのも、この多忙さと無関係ではない。別の宮内庁関係者が打ち明ける。

「宮内庁病院は皇居内にあるので、心から休んでいただけない。皇居から離れた病院で、強制的に仕事から離れていただくという意味合いもあったのです」

 それでも、天皇陛下は病室に持参したパソコンで皇太子さまが代読する式典のお言葉を作るなど、完全に休むことはなかった。

 宮内庁も天皇陛下の健康を心配し、以前から公務の負担を軽くしようと試みてきた。天皇陛下が即位20年を迎えた09年には、公務や祭祀(さいし)について幾つかの軽減策を提案している。

 たとえば、式典で述べる「お言葉」は、どうしても必要な行事を除き原則取りやめることにした。だが、「必要な行事であるかの判断をなさるのは陛下」(前出の、別の宮内庁関係者)なので、なかなか減らない。

 実際、08年の「お言葉」は16件だったが、今年は代読分を含め、11月中旬までに11件で、大きな変化は見られない。

 07年まで10年半にわたり侍従長を務めた渡辺允(まこと)氏も、
「公務を減らしていただこうと何回も申し上げたことがあるが、お受けにならなかった。陛下のお仕事はお立場に基づいており、簡単にやめられないものが多い」(09年2月14日付朝日新聞)
 と話している。国民のためにできることを、気持ちだけでなく形として行いたい、と公務を大事にする天皇陛下を前に、宮内庁の配慮もかすみがちだ。

 今回の一件にとどまらず、健康への不安はぬぐい去れない。天皇陛下に近い人からは、
「本当に心配なのは、今回の気管支炎でも治療中の前立腺がんでもなく、心臓のほうです」
 という声が漏れてくる。

 天皇陛下の心臓に冠動脈狭窄(きょうさく)が見つかったのは、今年2月のこと。皇室に近い関係者が明かす。

「陛下の冠動脈は、『粥腫(じゅくしゅ)』と呼ばれるお粥(かゆ)のような脂肪の塊が内部に張り付いている状態だそうで、皇后さまも大変ご心配なさっておられます」

 この病気は、症状が進むと血栓ができて血管が詰まる恐れがあるため、血管を広げるカテーテル治療やバイパス手術をする。天皇陛下の症状はそれほど差し迫っていないため、投薬治療だけだが、高齢な上に多忙ときては、心配するなというほうが無理だろう。

 もちろん、宮内庁も天皇陛下の心臓への負担を減らそうとしている。たとえば、11月23日に行われる宮中祭祀の新嘗祭(にいなめさい)では、天皇陛下が儀式を執り行う時間が昨年より短縮される。

 この祭祀は天皇が新穀を供え、神の恩を感謝するもので、午後6時からは夕(よい)の儀、午後11時からは暁の儀が、それぞれ約2時間ずつ行われる。

 宮内庁は当初、冷え込む時間帯の暁の儀は、掌典長などによる代拝にすることを提案した。しかし、天皇陛下が望まなかったため、両方の儀式に出る代わりに、夕の儀の時間を短くすることにしたという。

 体力の衰えや健康への不安が心配されるのは、美智子さまも同じだ。

 美智子さまは9月、左の肩から腕に強い痛みを訴え、北海道訪問を中止した。10月には、右足ふくらはぎの痛みや腫れが悪化し、筋肉の間で炎症が起きる下腿(かたい)筋膜炎と診断された。最近は御所内で、赤いつえを使うこともあるという。

 美智子さまと交流のある人物は、最近の様子に胸を痛めている。

「皇后さまは、ピアノを弾くときに楽譜が読みづらい、と悲しげにおっしゃっていた。多忙な公務の合間をぬって、お好きなピアノに触れるひとときは、安らぎの時間でしょうにね」

 高齢の両陛下を支え、これからの皇室のあるべき姿を国民に示すべき立場にあるのは皇太子ご夫妻だが、家庭の問題もあって公務に専心できる状況ではない。ご夫妻は、両陛下のご様子をどのように感じているのだろうか。このままでは、国民の心配は増すばかりだ。 (本誌・永井貴子)

■10月の天皇陛下の主な日程
 1日 
 2日 
 3日 拝謁、衆院議長挨拶
 4日 信任状捧呈式、ご会釈、執務、引見
 5日 視察(都内)、外国大使と懇談、ご説明(オイスカの歩み)
 6日 信任状捧呈式、ご会釈
 7日 ご説明(紀南地方豪雨)、執務、記念行事臨席、野田首相夫妻と夕餐
 8日 葉山御用邸で静養
 9日 執務
10日 執務
11日 執務
12日 ご説明(園遊会)、接見
13日 園遊会
14日 ご説明(奈良県豪雨)、ご会釈、執務 
15日 
16日 
17日 祭祀(神嘗祭)、執務
18日 執務、ご会釈、接見
19日 ご進講、ご説明(11月出席予定の大会関連)
20日 皇后さま誕生日の祝賀行事
21日 拝謁、国会開会式、ご会釈、接見、執務、ご説明(独大統領来日) 
22日 
23日 眞子さまへの勲章親授・挨拶
24日 引見、独大統領と会見・午餐、ご説明(鳥取県行幸啓)、展示会見学
25日 内奏、執務、挨拶、ご会釈、接見、執務、菅直人夫妻と夕餐 
26日 ご説明(山梨県行幸啓)、ご会釈、拝謁、外国大使と懇談
27日 ご説明(震災の影響)、ご会釈、拝謁、引見、挨拶
28日 執務
29日 行幸啓(鳥取県)
30日 執務
31日 執務
※ご会釈は勤労奉仕団などへの挨拶、ご説明は公務に関して説明を受けること

週刊朝日