私宛ての遺書には、


〈人生を全うしてほしい〉
 とありました。でも、どう人生を全うしたらいいのか、毎日考えています。

 私はお父さんの仕事が大好きでした。尊敬していました。だから、岩手の事件(三陸少女殺害事件=囲み)に没頭していたときも、静かに見守っていました。

 テレビ局の仕事で現地取材に行って、自宅に戻ってきたときは本当に興奮していました。

「この事件はおかしい」
 と。それから突っ走っていったように思います。ジャーナリストになって10年。

「この事件に出会ったのは運命だ」
 と話し、岩手の事件にすべてを懸けていました。岩手県警が指名手配し、警察庁が懸賞金までかけて行方を追っている容疑者とは別に真犯人がいると信じていたのです。自分の働きで事件の真相に少しでも近づくことができたら本望だと考えていたのでしょう。

「警察やマスコミはやるべきことをやってほしい」
 と。岩手の事件の捜査は誰が見てもずさんなものです。でも、警察もマスコミも動かなかった。

 私も警視庁の警察官でした。警察学校に入って最初に覚えるのが自分の職員番号と「警察法」第2条です。

〈警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする〉

 この意味をすべての警察官は理解しているのでしょうか?

 お父さんは命の大切さを知っていたはずなのに、最後の、最後の手段として死を選んだ。そうすることで、岩手の事件に関心を持ってもらって、動いてほしいと心から思っていたことは事実だと思っています。

 一昨年、真相解明を求める署名活動で1カ月、家を留守にしたときも、朝7時前から夜まで道路脇に立ち、地元の方々と一緒に一生懸命署名を集めました。署名が集まれば岩手県が動いてくれると信じていたのです。

◆家族はいちばん小さな組織だよ◆

 でも、お父さんが心血注いで取材した内容をまとめた50枚を超える情報提供書を岩手県は読んでくれたのでしょうか? 真相解明を求める2600人以上の方々の署名を岩手県はどう思っているのでしょうか?

 お父さんは私にとって、ふたりの子どもにとっていちばん大事な、大切な人でした。その人をこれほどまでに苦しめた人たちを恨みます。

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