186センチ、98キロの大柄な体躯に、ふてぶてしい態度。投げては150メートルに迫り、打っては150メートル弾を放ったこともある。"山陰のジャイアン"こと開星高校(島根県)の白根尚貴(なおき)君(18)は、今年のドラフト候補生の中でも強烈な個性を放つ"裏注目株"だった。

 ソフトバンクに4位指名された日の翌日、白根君は午前中に早退していた。

「ドラフト当日は、自分の夢がかなうかどうかでずっと緊張していたんです。神経が疲れてしまって、胃が痛くなったんです。こんな図体ですが、意外に繊細で気が小さいんです(笑い)」

 両親は彼が小学5年の時に離婚。白根君は心臓病を患う母と2人で生活してきた。小学1年から野球に励んできたが、グラウンド外では札付きのワルだった。

「中学3年の頃は荒れていました。学校でもチョークや黒板消しを人に投げつけたり、むかついたヤツをひたすら殴ったり......3日に1回ぐらいは警察が学校に来ていましたし、夜遊びして一度だけ補導されたこともあります。今ではものすごく反省しています」

 改心したきっかけは、母の病気だった。

「僕が迷惑をかけると母の心臓に負担がかかる。プロに入って母を楽させてあげたいので、甲子園に行ける開星進学を決めたんです」

 すぐに頭角を現し、1年春にはエースとして選抜大会に出場。しかし初戦で21世紀枠の向陽(和歌山県)に1-2で敗れてしまう。その日、野々村直通(なおみち)監督が「末代までの恥」と発言して社会問題に。謝罪会見を開き、監督を辞すと、白根君の生活は再び荒れた。謹慎して野球部を離れた時期には「退学」を決意。野球部に関わってはいけない身でありながら、それを引き留めたのが今年4月に復帰した野々村監督だった。

「白根は島根の宝。このまま退学させては、どんな悪さをしでかすかわからんし、あいつの人生が終わってしまう。『お前のおらん開星野球部はつまらん』と言いました」(野々村監督)

 白根君もその言葉を覚えている。

「忘れられません。この言葉で僕は救われたし、生まれ変わった。母と2人で暮らしている僕にとっては、野々村監督が父でした」

 ソフトバンクは豪腕よりも打撃センスに大きな期待を寄せており、本人も打者転向を決意している。

「ヒジの状態が悪くて、このまま投げ続けても、長くは続かないと思います。打率3割、30本塁打を打てるような選手になって、いずれはソフトバンクの4番を打ちたいです」  (柳川悠二)


週刊朝日