――「マイ・プリンセス」では、共演のキム・テヒさんと"絶世の美男美女コンビ"として、韓国では「眼球浄化(目が洗われるほど美しい)カップル」という言葉が流行るほど、話題になりました。テヒさんの美しさに負けないよう、ご自身も気をつかわれましたか。

ソン・スンホン それが、以前の出演作と比べると、カッコよく見せようっていうことを、まったく考えなかった作品だったんです。このところ、荒々しい姿を見せる作品がずっと続いていましたよね。そこでは男らしく見せなきゃとか、カッコよく見せなきゃとか、アクションを決めなきゃとか、いろいろ強く意識していたんです。
 ところが今回は、そうした作品よりもリラックスして、自然な姿を見せればいいんだと考えて、気持ちのうえではすごく楽でした。僕の素の姿を出せたんじゃないかなと思います。多くの方々に僕のカッコつけない姿を見てもらえて、よかったです。

――カッコつけないでも、あんなにカッコいいとは……。

ソン・スンホン (ちょっと照れて)ハハハハ。

――ソン・スンホンさんって、いつも「正統派二枚目」と言われるから、かえって役作りに苦労されている面もあるのでは。

ソン・スンホン (うなずきながら)みなさんは、たいてい俳優をタイプ別に、ある先入観をもってご覧になっていると思うんですね。簡単に二つに分けると、ビジュアル派俳優なのか、演技派俳優なのか。これは古今東西関係なくそうだと思います。
ビジュアル派、つまり外見がいい人には優れた長所があります。ルックスがよく、次にその人に与えられた役柄のキャラクターがあり、さらに、その人の持つ俳優としての器もあります。いろいろな要素が、一人の中に含まれることになるからです。
たとえばハリウッドスターでいえば、ロバート・デニーロ、アル・パチーノ、ブラッド・ピットなどは、そのすべてを持っている人たちだと思うんですね。でも、そういう人たちは単にカッコいいだけじゃないですから。もちろんカッコよさは長所だけど、それだけじゃないっていうのがある。
一方、ご覧になる方も心をもっとオープンにして、2つに分けるんじゃなくて、多面的に俳優を見ていただきたいなというのが僕の正直な気持ちなんですね。
ルックスが大変優れている人は、最初はビジュアル面ばかりが注目されて、演技力はあとから認識されることが大変多いです。そのぶん、いわゆるビジュアル派は演技力を高めることに、ビジュアル派でない人より、一層努力をしなければいけないという苦労があると思うんですね。
ただ、結論を言いますと、ビジュアルがいいって言われること自体、決して悲しむことではなくて、喜ぶべきことだと僕は思っています。

――今回の作品では、さまざまなキスシーンも話題になりました。キスをうまくする工夫もされたんですか?

ソン・スンホン ハハハッ(慌てた様子で苦笑。少し考えてから)。キスシーンねぇ……。キスシーンだから、特に頑張ろうと考えたことはないですよね。ただ、すべての俳優にとって当たり前のことなですけど、演技でのそれは、実際に自分のプライベートでするキスよりもずっと、そして、すごく恥ずかしいことなんですね。
大勢のスタッフやカメラの前でキスするなんて、まともに考えたらすごくプレッシャーだし、簡単にできることではないと、俳優なら誰もが思っているはずです。
そんな微妙なシーンだからこそ、僕も一生懸命、周りの目を気にしないように没頭しようと頑張ることは、実際にあります。でも僕はキスシーンだからといって、特に意識することはないかな。
――それにしてもロマンチックなキスシーンがいっぱいありましたよ。

ソン・スンホン アハハハ!(爆笑)。

――「マイ・プリンセス」で演じた主人公「ヘヨン」の役柄が、ご自分の素に近いとおっしゃいましたが、彼は賢いけど、傲慢でツンデレ王子ですね。ご自分の性格を分析されると?

ソン・スンホン すべての俳優たちが演じる役柄を通して、自分を表現しているんじゃないかなと思うんです。もちろん役の上での人物ですから、自分自身ではなくて、その人物に一生懸命なりきろうとするのですが、本人の考えや姿も演じるなかで絶対に反映されていくと思うんですね。
今回は、演じながら、僕がヘヨンだったらどうするだろうと考えたときに、一瞬一瞬の彼の行動や彼の言葉とかが、「あぁ、僕と同じところが多いな」と、結構思いました。今まで演じた作品の中で、もしかするとこのキャラクターが、僕が共感する部分が最も多かったのではないかと思います。

――その共感するところとは、どんなところですか。

ソン・スンホン 今まで演じた、たとえば「夏の香り」や「秋の童話」の人物は、思っていることをストレートに表現する人間ではなかったですよね。思いを心の中にずっと溜めているような、翳りのある役柄でした。何かを言いたくても口に出せないキャラクターが多かった。
ところが、今回の「ヘヨン」はストレートにものを言うし、好き嫌いもはっきりしている。そして誰かを「好き」だというときには、すごく情熱的な部分も見せたりしますね。これまでに感情を溜め込んできた役柄が多かった反動もあり、セリフを言いながら、すごく気持ちよく、清々しかったんです。
ヘヨンの正直さが、自分として痛快だったわけなんです。女性に対しても、ちょっと意地悪してみたり(笑)。でも、そのぶん、「好きだ」という気持ちは情熱的に表現したり。そういうところが楽しかったです。

――自信家でナルシスト。ソン・スンホンさん、ご自分も?

ソン・スンホン なきにしもあらずかもしれないですね(笑)。でも、さすがにヘヨンは特別ですよね。いわゆる「王子様病」という言葉にふさわしい。まさに「俺様キャラ」。僕は、全然そこまでじゃないですよ(笑)。
でも、僕の性格って、結構ストレートで、実は意外と頑固者だったりもするし、これまた、正直なんですよ。そして、自分で言うのもなんですけど、単純なところもあるんです(笑)。また、好きなものには没頭して情熱的にハマッてしまう部分も持っています。自分で自分を分析すると、こういう感じになるかな。

――今回の役柄は、財閥御曹司で外交官。前作では、社会の底辺に生きる人。階層でも両極を演じておられますね。実際にいまの韓国では格差が広がり、お金持ちと貧乏人に二分されています。どちらの境遇にシンパシーを感じますか。

ソン・スンホン 共感というよりも、どちらが自分にとって気になる存在かという意味ですか?

――そうですね……。

ソン・スンホン うーん、実は、この質問の意図がいまいちわかっていないというのが、正直なところなんですけど、今回僕が演じた財閥の御曹司っていうのは、いまの韓国の中でも1パーセントもいない、まさに「王子様」というか、権力も経済力も持っている人間です。それはきわめて少数であり、韓国では大半の人たちは庶民であり、平凡な暮らしをしている普通の人たちが圧倒的に多いわけですよね。
ただ、金持ちだからいい、悪い、庶民だからいい、悪いというのでもないわけですよね?(と、ここまで話して)やっぱり共感とか、どっちの側に惹かれるとか、そういったことは、どう答えていいのか……。

――質問をちょっと変えてみましょう。ソン・スンホンさんご自分は、苦労されたことがありますか。生い立ちとか、経済的に。

ソン・スンホン あぁ、あぁ(「やっとわかりました」という感じで、大きくうなずきながら)。たしかに、これまで僕が演じた役は特異な状況に置かれた人物、非常に極端な状況の人たちが多かったと思うんですね。
たとえば、家庭的に大きな問題を抱えているとか、すごく環境が悪かったり、あるいは組織の人間だったり。暗くて重々しい状況を抱えた者を演じることが多かったんです。 
そうかと思えば、今回は、韓国の中で1%に満たないような上流の人たち、極端な階層を演じました。こういう上流階級は初めて演じたので、正直、面白かったなっていうのはあります。へぇー、上流階級の人たちってこんなふうなのかと、楽しみながら演じました。
ただ僕の場合、ごく平凡な家庭環境で育ったんですね。子どもの頃から、うちが大金持ちだったわけでもなく、またすごく貧乏だったわけでもなく、本当に平凡な家庭だったので、俳優としては極端な経験を積んでいなぶん、極限の状況に生きる人間を表現するうえで、苦労しているのかな、などと思ったりもしますね。本当に平凡な家庭でしたから。

――ところで、いま日本では第二次韓流ブームと言われています。韓流スターも若手が次々に台頭するなか、ソン・スンホンさんはスターとして第一線に立ち続けておられる。ご自分をどうキープされているのですか。

ソン・スンホン いま、K-POPが日本ですごく人気を集めていますね。韓国ドラマはもう少し前から人気でしたけれど。
実は、韓国ドラマは、韓国国内でも、熾烈な競争を勝ち抜いてきた作品が海外に出て、日本でも人気を集めているんですね。韓国内だけでも競争がすごいので、それを勝ち抜いてきたドラマというのは、やはり、とても力強い作品なんですね。
そういう中で新人も次々に出てくる。僕も新人の頃には先輩たちの演技など見て、いろいろなものを学びながら大きくなってきました。
僕は、いまちょうど中堅、新人でもないし、ベテランでもない、中間のところにいます。若手も含めて大勢で競争しながら、韓国で勝ち抜き、日本でも勝ち抜き、というようなことが行われているのは、僕にとって大変刺激的であり、この状況を肯定的に見ています。いいことだと正直に思っているんですね。

――30代半ばになられて、今後、俳優としてどうありたいとお考えですか。

ソン・スンホン  若いときは血気盛んな感じで、目標を持っているというよりも、とにかく勢いでバーン!ときたという感じだったんですけど、だんだん年を取るにつれて、最近、俳優という職業について「責任を持たないといけない」と真剣に思うようになってきました。
国内だけでなく、日本、そしてアジアへと、ドラマが観られていくので、自分も責任感を持った俳優にならないといけないと、年を取るにつれてすごく思うようになってきました。
 30代中盤になりますが、具体的にどんな俳優になりたいかというのは、これから年を取っていっても、30代なら30代、40代なら40代、50代なら50代とその年代にふさわしく、カッコよく年を重ねていける俳優です。
俳優には2通りあり、カッコよく年を重ねていける人と、あるとき一気に老けてしまう人がいると思うんですね。僕は後者ではなくて、その年代、その時にぴったりの、カッコよく年をとれる俳優になりたいんです。
そして、なによりも人々の心の中に余韻を残せる、記憶に残れる作品に出続けて、年を重ねられる存在であり続けたいと思っています。
もちろん男くさい部分が醸し出せればいいし、もっと違ういろいろな面も出していきたいです。

――これからはもっとコメディーに出てほしいです。

ソン・スンホン (笑いながら)わかりました。

――愉快でおバカな役、期待しています(笑)。

ソン・スンホン アハハハ! ハイ!(日本語で)

週刊朝日