増税「念仏」内閣に投資家・経済界の本音は... 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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増税「念仏」内閣に投資家・経済界の本音は...

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 経済界では、菅直人前首相の退任が近づくにつれ、次期首相をめぐる話題に覆われていった。

「小沢一派だけは困る」

「国益よりも政局優先という感じがするね」

「前原(誠司元外相)は?」

「八ツ場(やんば)ダムの問題がそうだけど、パフォーマンス先行だね」

 なにしろ、ある財界人によると、菅前首相から経済界に対して協力を求める真摯な呼びかけはなく、
「民主党は経済界を敵に回すことで支持率が上がると考えていたからね。日本経済は政治に足を引っ張られてきました」

 円高や欧米の財政赤字問題などの逆風が吹くなか、経済界は次期首相がだれになるか、かなり気にしていたようだ。

 ところが、野田佳彦新首相は一転して9月1日、組閣前にもかかわらず経団連など経済3団体を表敬訪問した。法人税率の引き下げを含む税制改革の実現や、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加など、海外との競争で不利な制度が解消されるのではないかと、この財界人は歓迎する。

「案外、深謀遠慮の人ではないか。日本はいい方向に行くと思う」

 賛否半ばながら、投資家の最初の反応も素直だった。

 株は下がった。民主党代表選の8月29日、午後1時半過ぎのこと。野田氏が決選投票への進出を決めると、前週末と比べて100円を超えていた日経平均株価の上げ幅はするすると縮小し始めた。新代表が決まった午後2時過ぎには一段と売りが増加。一時は午後の安値まで押され、かろうじて前週末比53円高で終えた。

「代表選5候補の中で唯一、増税の必要性を訴えていたからです。復興財源や財政再建は増税で賄うと主張しており、成長戦略よりも、まず増税ありきと受け止められた」(SMBC日興証券の橘田憲和次長)

 野田氏は、震災復興に向けて発行する「復興債」の返済財源として所得税の定率増税を考えているとされる。高齢化でふくらみ続ける社会保障費の対応でも、2010年代半ばまでに消費税率を10%に引き上げる方針を表明している。

 所得税や消費税の増税は、当然ながら個人消費を冷やす。代表選の日は、
「百貨店など消費動向に敏感な銘柄に売りが集まったのが象徴的でした」(前出の橘田氏)

 株価とは逆に、日本国債の価格は上がった。

「日本の国と地方の長期債務残高は国内総生産(GDP)の185%に当たり、先進国で最悪です。それが少しでも解消に向かうと期待された」(証券会社幹部)

 ともあれ、野田氏にはさっそく、復興策を盛り込む第3次補正予算と来年度予算の編成が待ちかまえる。ここで増税が形になれば、
「経済停滞が続くなか、早急に増税すれば、景気の失速につながってしまいます。これは日本経済にとって大きなリスクです。消費税率を引き上げた1997年以降、日本はデフレと低成長に陥りました」(マネックス証券の村上尚己チーフ・エコノミスト)

 税制改正は、冒頭で経済界が歓迎したように海外で活動する企業にとっては有利だとしても、国内景気には打撃を与えるというのだ。

 こうした見通しが為替や日本国債の市場にどんな影響を及ぼすのか。

「財政破綻の懸念が鎮まり、日本国債に対する信用度が高まる(金利は低まる)。金利は低位安定するでしょう」(クレディ・スイス証券の白川浩道部長)

「財務大臣として為替政策を担ってきただけに政策に目新しさはなく、為替は劇的に動くこともない。円は高止まりしたままでしょう」(為替ストラテジスト)

●財政再建すると唱え続けても...

 株については、金利の低位安定という見込みから、
「低金利の恩恵を受けるのは負債が多い業種です。復興への期待もあるので、これに当てはまる建設株や不動産株などで勝負する」(前出の証券会社幹部)

 実際、野田内閣が発足した9月2日には、鹿島や大林組などの建設株に買いが入っている。

 と、ここで投資家も経済界も腰を抜かした。党運営の要である幹事長に、増税に消極的な小沢一郎元代表に近い輿石東(こしいし・あずま)参院議員会長が選ばれたことに加えて、財務相にも、これまで経済や財政の重職に就いたことがない安住淳・前国会対策委員長が指名されたからだ。

「ポストを配分するための『挙党一致』であれば、結果として、政策の譲歩が求められる場面が増えると思います。増税路線は後退するでしょう」(バークレイズ・キャピタル証券の森田京平チーフエコノミスト)

 野田氏の看板政策に、いきなり疑問符がついたわけだ。「増税するぞ」と言い続けたとしても、その実現は難しいとして、前出のクレディ・スイスの白川部長は野田内閣をこう名付けた。

 増税「念仏」内閣

「増税という『念仏』を唱えるものの、踏み切れるかどうかは別」(白川部長)

 日本経済に差し込む光明を探すとすれば、政局の安定化だという。自民・公明との3党合意を尊重する姿勢は、政局波乱の危険度の低下を示し、投資家に一定の安心感をもたらす。

「菅政権より政策の決定や執行がスムーズに進めば、株式市場にとってプラス。復興が一刻を争うなか、国会対応が前に動き出すことが一番重要です」(大和住銀投信投資顧問の門司総一郎チーフ・ストラテジスト)

 菅政権の期間に日経平均は6・2%下がった。しかも、首相就任時と退任時の株価を比べると、福田康夫氏から4人続けて、「株安首相」だったのだ。増税の「念仏」を唱えながら野党と協調すると、野田氏の「株価」はどう動くだろうか。 (本誌・常冨浩太郎、江畠俊彦)


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