「預け入れは、この100日間で1万2千匹を超えました。1~2月は計2千匹だったのに、震災翌日の3月12日だけで2千匹。計画停電や水槽の故障といったやむを得ない事情をきちんと説明してくれた人も多くいましたが、震災後の混乱で飼うのが面倒になっただけの人もいたでしょうね」(山崎さん)

 なかには、金魚やミドリガメのほか、値の張りそうな錦鯉から、ワニのように口先がとがったガーパイクやピラニアなど"肉食系"の外来魚までいる。"育児放棄"はけっして褒められた話ではないが、それでもポストに預けられただけマシだと山崎さんは言う。

「震災のあと、ポリプテルス(アフリカ産の淡水魚)など熱帯魚の死骸が大量に多摩川に浮いているのを見つけました。3月の冷たい水温で生きられるはずもないのに捨てたのです。『生ゴミ』として処分した人がいたとも聞いています」

 救った魚たちのエサ代だけで月に100万円を超えることもある。だが、山崎さんは800万円の借金をして、"孤児"の命と多摩川の生態系を守っている。

「金銭的にはとっくに破綻していますが、魚たちを見捨てるわけにはいきません。スポンサーを必死に探しているところです」

 一度ペットにした以上、人間が"親"になる以外、救う道はないのである。

◆被災地経験者が語る「重要なのはしつけと首輪」◆

"わが子"を守るために、いま、何をすべきなのか。

「まずは、ふだんのしつけが重要」と話すのは、被災ペットの問題を長年追い続けているジャーナリストの香取章子さんだ。

「犬は避難所でムダ吠えしないよう、家以外の場所で他の人や動物と過ごせる社会化としつけをしておくことが重要です。はキャリーバッグで移動できるようにしておきましょう」

 携行品で見落としがちなのが薬だ。

「コンビニなどが営業を再開すればフードや水は確保できますが、薬は手に入りにくい。ペットに持病があるなら必ず薬を持って避難することです」(香取さん)

 実際に震災を経験した飼い主の声も聞いてみよう。愛猫の生態をほのぼのと描いた『アメショっす!』(主婦の友社)などの著書もある人気猫ブロガーの「桃にゃん」は、仙台市に住んでいた08年に岩手・宮城内陸地震に遭い、その後、福島県へ引っ越して、今回の大震災に見舞われた。

「08年のときは、地震の揺れで閉めていた窓が開き、そこから猫が飛び出しました。運良く捕まえたものの、ペットが逃げ出すと、飼い主は自らの危険を忘れて追いかけてしまう。自分の身を守るためにも、しっかり施錠しておくことが大事です。また、キャットタワーは完全に固定するか、背の低いものを使ったほうがいい。揺れに驚いた猫が逃げ込むとか、倒れたタワーで窓が割れ、猫が逃げ出してしまう恐れがあります」

 桃にゃんは08年の経験から、緊急避難袋に猫用品を追加した(写真)。今回の震災では放射能の不安もあるため、新たに1カ月分のフードやペットシーツ、猫砂などを用意し、玄関に置くようになったという。

「震災ショックで食欲が落ちるペットも多い。そんなときでも『これだけは喜んで食べる』という一品を見つけ、避難袋に入れておくといいと思います」

 被災地では、避難指示のために泣く泣くペットと別れた飼い主も多い。前出の香取さんはこう提案する。

「野良化や餓死といった悲劇を起こさないためにも、自分の身の安全が確保できたら、必ずペットを連れて避難しましょう」

 万一はぐれてしまった場合は首輪がものをいう。

「今回の震災では『首輪をしていれば』と悔やんでいる飼い主もいます。首輪ははぐれたペットと飼い主をつなぐ鍵になる。室内飼いでも普段から着けることをお勧めします」(桃にゃん)

◆"わが子"を救う8カ条◆

<その一>社会化としつけが重要

<その二>ペット用の避難袋を用意せよ

<その三>キャットタワーは完全に固定

<その四>扉の施錠は完璧に

<その五>首輪はライフライン

<その六>同行避難が鉄則

<その七>薬を持ち出せ

<その八>好物を知ろう

■放射線への耐性の違い■

種     放射線 半数致死線量(Gy=グレイ)

ヒト    γ線  3-4(推定値)

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ヒツジ   γ線  2.05

イヌ    X線  2.44-3.03

ロバ    γ線  2.56

ヤギ    X線  3.06

モルモット X線  4

マウス   X線  5.21-6.38

サル    X線  5.22-5.46

ウサギ   X線  6.80-9.11

ハムスター X線  7

ラット   X線  7.96

(北里大の伊藤伸彦教授作成)


週刊朝日