「ペットの警戒区域からの連れ出しは震災の発生直後から関係機関と協議していましたが、なかなか認められず、実際の救出までに時間がかかりました。その間、抗議の電話が鳴りやまず、通常の業務ができないほどでした。一匹でも多く救いたいと思うのは、私たちも同じなのですが......」(西山室長)

 震災直後から、避難所のペットの診察などに尽力してきた「千葉小動物クリニック」の獣医師である河又淳さんは、対応の遅れの背景には「人災」の側面があると感じている。

「国や県の対応が遅いからと、無断で警戒区域に入ってペットを保護しながら、現場に『どこで預かっています』というメッセージを残さない、明らかにルール違反のNPO団体などもあった。これは保護ではなく"連れ去り"です。動物を思う気持ちは一緒なのでしょうが、お互いを責め合ってばかりで、足並みがそろわず、逆に事態を混乱させていた」

 震災から3カ月が過ぎ、住民と行政の協力態勢が整ってきたところもある。これまでペットの同伴が禁止されていた福島市内の「あづま総合運動公園」避難所には6月6日、犬、の避難所ができたのだ。

 前出の河又さんは言う。

「震災の直後は避難所内の雰囲気も殺気立っていて、ペットのことなんてとても言いだせなかった。そのため、ペットを飼っている人は避難所に入れず、狭い自家用車の中で生活していました。しかし、公園を管理する県都市公園・緑化協会と県獣医師会、ペット販売大手のコジマが協力し、避難所住民の理解を得た上で、公園内の建物を改装し、ようやくペットを避難所の近くに住まわせることができるようになったのです」

 犬17頭が暮らす避難所は、施設に動物のにおいが移らないよう、ピンクや緑などカラフルな壁紙が張られている。飼い主は愛犬と好きなときに触れ合えるが、夜9時半までというルールだ。順番で施設内の清掃も行っている。

 毎日、良い環境で触れ合えるからだろう。犬も飼い主もとてもおだやかな表情をしていた。

 原発事故も震災もまだ先は見えない。だが、行政も住民も、前を向くことはできるのだ。

◆特需にわくペットビジネス最前線 迷子札やペット用飲料がバカ売れ◆

 局所的に放射線量が高いホットスポット、水道水からの放射性物質の検出、計画停電--。愛するペットへの影響を懸念する飼い主は少なくないようだ。

 物言えぬペットのために、できる限りのことをしてあげたい。そんな飼い主の愛情が、ペットビジネスを過熱させている。

 国内の代表的な通販サイト「楽天市場」のペット用品コーナーで「放射能」と入力して検索すると、犬用レインコートの画像がズラリと並ぶ。赤や黄、青といった色鮮やかなものから、ミリタリーデザインのものまでそろう。放射性物質を含んだ雨から散歩中の愛犬を守ろうというのである。

 「オピタノ」のブランド名で、東急ハンズなどでペット用品を販売する「宇サブロー」(東京都江東区)によると、同社の犬用レインコートの売り上げは前年比で3~5割増。今年はすでに、昨年1年間の販売数(約500着)を上回ったというから驚きだ。

 スキーウエア用の防水素材を使用し、価格は1着6千円から1万円もするが、一部商品はすでに売り切れ、次の入荷は秋だという。

「レインコートだけでは全身を覆えず、胸の部分が開くため、念を入れて防水エプロンを同時に買うお客様もいます」(幸寺司代表)

 ペットの飲み水を考え直す飼い主も増加中だ。

 ペット用飲料水で国内トップクラスのシェアを誇る「アース・バイオケミカル」(東京都千代田区)は、ポカリスエットやオロナミンCでおなじみの大塚グループの会社で、「ペットスエット」や天然水を販売している。都の水道水から乳児の飲用基準を超える放射性物質が検出された3月下旬以降、商品に関する問い合わせが急増した。

「飲料水は震災直後、欠品になるほど売れました。その後も順調で、5月末までの累計で前年比2倍以上を売り上げています。震災をきっかけに認知度が上がったのが大きいですね」(営業企画推進部)

 人間用のミネラルウオーターをペットに与えると、ミネラル分が過剰で、分解できずに尿結石になる恐れがある。そのため、ペット用の飲料水を求める人が増えているのだという。

 ペットにとって怖いのは放射能だけではない。節電が推奨される折、夏の猛暑は命にかかわりかねない。

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