◆菅 相も変わらぬパフォーマンス癖◆

 絶体絶命のピンチを乗り切った夜、記者会見で菅首相は時に薄ら笑いを浮かべていた。
「僕も会見に行きましたけど、妙な笑顔で『一定のメド』『一定のメド』って、つまんないお約束のギャグかよって感じでしたね」
 政治ウオッチャーとして知られるお笑いグループ大川興業の大川豊総裁はあきれる。
「市民活動家あがりの人って、外に向かって何かを訴えるより、たぶん内部闘争が大好きなんですよ。だから『どうだ、俺はこの難局をまた乗り切ったぞ!』って勝ち誇った気分なんじゃないですか」(大川総裁)
 そんな菅氏のふるまいこそすべての混乱の元凶だと、政治ジャーナリストの野上忠興氏は話す。
 総理の座に就くまでは権力闘争に明け暮れても、いざ総理になったら、最高指導者たるもの、恩讐を超え、懐を深くして舵取りをすることが求められる。ところが菅氏がやっていることは、相も変わらぬ権力闘争だ。
「民主党議員全員での『412人内閣を』と公言しながら、実際は小沢をヒールに仕立てて自分は正義というイメージを振りまいてきた。不信任案の採決前に『鳩山さん、小沢さんと話をしたい』と言いながら、実際に会談したのは鳩山だけで小沢には電話すらしていない。これでは小沢が『もはや、これまで』と見限るのも当然です」
 パフォーマンスに走る癖も抜けていない。日中韓首脳会談の開会式を福島で開くことにこだわったことがいい例だ。
「中国側の関係者は、菅のパフォーマンスに『ばかばかしくてやってられないよ』とあきれてましたよ」(野上氏
) そんな軽薄さが被災地にさらなる災いをもたらしている。政治評論家の森田実氏はこう憤る。
「被災地を回って現場の声を聞いていると、菅直人が復興の障害になっているんですよ。3カ月たっても被災者にほとんどカネが配られていない。陳情に行ってもたらい回しにされる。戦後も阪神大震災の後も、時の政府は職を失った人たちのために雇用を生み出す努力をしてきました。そうした努力が今回はまったく見られません」
 金融関係者たちも、菅氏の居座りが景気の足を引っ張ると断言する。
「たとえば停止された原発の再稼働は住民感情を考えると難しいでしょう。しかし、それに対する具体的な対応策は練られていません。バランスの取れた経済感覚はなく、感情的、短絡的に世論受けする発言を繰り返している」(独保険会社アリアンツの資産運用部門RCMジャパン・寺尾和之最高投資責任者)
 それでは菅氏はいったいいつ辞めるのか。
 菅氏をよく知る人物は、
「菅さんの話を『永田町用語』に翻訳したらダメ。語義どおりに読まないと」
 と語り、菅氏の思いをこう代弁する。
「延命とか政権にしがみつくなんて意識は菅さんにまったくない。それは寿命が過ぎている人に使う言葉であって、菅さんは任期途中なんだから総理のイスに座ることが当然だと思っていますよ」
 原発の「冷温停止」も一定のメド、などと言ってのけるその頭を真っ先に冷やすべきでないか。

◆小沢 自分だけが助かろうとした◆
 親小沢の急先鋒、松木謙公衆院議員が小沢グループでただひとり、不信任案で賛成に回ったその本会議場に、親分である小沢氏の姿はなかった。
 政治評論家の屋山太郎氏は菅、鳩山、小沢の「トロイカ」のうち小沢氏にもっとも厳しい。
「彼はこのままでは検察にやられる、と今回、勝負に出たが、鳩山グループが腰砕けで数が足りないとわかった。それで勝てない戦から身を引いて、自分だけが助かろうとした」
 自民党など野党から追及されているマニフェストの「4K」(子ども手当、高校無償化、高速道路無料化、農家の戸別所得補償)に小沢氏がなおこだわる点については、「だれの目にも破綻が明らかな4Kをやれだなんて、政策オンチもいいところだ」とバッサリ。
 同志社大学大学院の浜矩子教授は、
「結局、こういう有事の状況下でも権力闘争しかできない」
 「インサイドライン」編集長の歳川隆雄氏も、
「怨念と執念だけで突っ走ろうとした」
 と、小沢氏をやり玉に挙げる。一方、大川総裁は、
「菅さんの目が被災地に全然向いてないから、被災地出身である小沢さんがもっと現場へ出てがれきを撤去したり避難所で炊き出ししたり地元の野菜食べたりしてたら、小沢待望論が出てきたかもしれないのに」
 と惜しがる。
 新たな処分こそ受けなかった小沢氏だが、今後、逆転の目はあるのだろうか。
 歳川氏は、
「小沢さんは最後の勝負に負けたわけで、離党して新党結成しかないでしょう」
 と言うのだが。

◆鳩山 彼が出てくるといつも大混乱◆
「まあ、鳩山さんでしょうね。鳩山さんが出てくると必ず混乱するんです。要するに、常にグラついているのがいけない。10分前と10分後で言うことが変わるんだから」
 政治アナリストの伊藤惇夫氏は、鳩山氏を第一の戦犯に挙げた。
 その鳩山氏を突き動かしているのは「誤ったオーナー意識」だと言う。
「いまだに民主党は自分の党だと思っている。それが背景にあるから、動きがおかしくなる」(伊藤氏)
 ちょうど1年前、自らの退陣が取りざたされたとき、小沢氏や輿石東参院議員会長との三者会談を終えた鳩山氏が、部屋を出る際に親指を突き上げるポーズを見せ、そのトリッキーな動きが話題となった。
 大川総裁は当時のことを思い出したという。
「ちょうどあのころは宇宙飛行士の野口聡一さんが地球にお帰りになったタイミングだったんで、あ、鳩山さん、宇宙からメッセージ受け取ったなと思ったんですけど、今回はどっからメッセージ受け取ったか、読めないんですよ(笑い)」
 歳川氏は鳩山氏の詰めの甘さを指摘する。
「これは生きるか死ぬかの権力闘争で、うそでも何でもありの世界。ペテン師であろうが勝てば官軍、それ以外は負け犬の遠吠えでしかない」
 1976年、大福(大平正芳・福田赳夫)の間で交わされた、福田氏が2年で首相の座を降りるという密約もほごにされたように、「今回の覚書もほごにされて当然」(歳川氏)だという。
 屋山氏も「あの政治センスのなさはどうしようもない」と鳩山氏に手厳しい。
「鳩山は不信任案に賛成したら自分のグループが持たないとわかって焦った。そりゃあそうだよ。あのバカさ加減見てたら、だれもついていかないよ。仮にいつ辞めるか菅との間で約束したとしても、それを口にしたら総理大臣は仕事ができなくなっちゃう。言わないのが仁義なんだ。そんな常識もわからない。記者時代から歴代の首相を見てきたけど、あれこそ本当のバカだね。『指3本』で辞任させられた宇野宗佑のほうが、よほど利口だったよ。そんな人間がこの間まで一国の総理をしていたわけだからおそろしいことだよ」
 鳩山氏が菅氏や岡田克也幹事長を「ウソつき」「ペテン師」と罵ることにも、脱力せざるを得ない。
「自分が総理のとき、アメリカのオバマ大統領に『トラスト・ミー』と軽々しくぶった。それに総理を辞めたら引退するって話はどうなった? あれこそウソの極みだよ」(屋山氏)

◆"トロイカ"総崩れで民主党の未来は?◆
 もちろん菅、小沢、鳩山のトロイカ以外にも戦犯はいる。自民党など野党がこの時期に不信任案を提出したことに、浜氏は、
「開いた口がふさがりません。あごが外れましたよ」
 とあきれかえる。
「原発事故がいまだ収まらない緊迫した状況下で、こういう低次元の政争に血道をあげるなんて、とんでもない。自民党は見識のなさを露呈しました。こんなときでも与党に返り咲くことしか考えていない。主導した人はだれであれ、トップに責任があります」
 と谷垣禎一総裁を戦犯に挙げた。]
 日本大学の岩井奉信(ともあき)教授によれば、今回のドタバタ劇はだれが悪いとも言い切れない。与野党双方にとって「戦略なき火遊び」だったからだ。民主党政権になって以降、政界全体を見渡してシナリオを描ける人材がいなくなったことが、背景にあるという。
「野党も民主党も、菅を降ろせば何とかなると思っていたが、その後の展開が描けていなかった。確固たる信念や論理がないまま、ズルズルと菅降ろしの空気に流されてしまっていたので、菅降ろしに回った側も内心、不信任案が否決されてホッとしているのではないか」
 一方、民主党内では意外なことに(?)このところ岡田幹事長の不人気ぶりが目立つという。
「菅降ろしを一皮めくると、不満の元凶は実は岡田さんだという声が多いんです。要は、執行部を代えてほしいという思いが菅降ろしにつながっている。いまや幹事長は党内不人気ナンバー1ですよ。特に居場所と出番がない1年生議員の不満がくすぶっている。というのも、岡田さんは1年生のガス抜きが狙いの懇談会の場でも、相手を論破してしまうんです。やりこめられた1年生の不満はたまる一方で、2日の代議士会でも、菅さんより岡田さんへのヤジがすごかった。『引っ込め』『辞めろ』なんて、礼節も何もあったものじゃないですよ(笑い)」(民主党職員)
 もはや「学級崩壊」状態の政権与党はどこへ向かうのか。先の伊藤氏は、
「常に菅、鳩山、小沢の3人の対決、あるいは協力関係の中で党内が振り回されてるわけでしょ。今回もまさにそうだったわけですから、全員引くべきですね」
 一方、屋山氏も、
「トロイカがこれで全部アウトでしょう。タマネギでいうと、この3枚の皮がめくれて、ようやく民主党もまともに食えるようになるんじゃないの」
 めくった先に中身はあるのか。では「ポスト菅」を探ってみよう。

◆ポスト菅、実力をバッサリ診断 前原、野田、仙谷、枝野、蓮舫、小泉……◆
 菅首相の「なんとなく辞意表明」は、その後、言った言わないの泥仕合になっている。しかし、さすがにこのまま菅政権が続くはずがない。永田町のセンセイたちは、「ポスト菅」探しへ動き始めた。
 ところが--。本命不在でほとほと決め手に乏しい。どうも新味のないパッとしない「首相の座争い」になっている。
 識者の意見の中では、自民党との大連立を前提に、仙谷由人官房副長官を有力視する声が目立った。
「インサイドライン」編集長の歳川氏はこう話す。
「自民はここでは負けたけど、参院での問責決議案提出など、揺さぶりにかかるでしょう。民主党批判が日常的になり、大連立しかないという動きにつながっていく。秋口の早い段階から、連立の動きが出てくるはず。そうなれば当然、そのキーパーソンの一人は仙谷氏ということになる」
 日大教授の岩井氏も、こう指摘する。
「期限付きの大連立を考えるなら仙谷氏。大島理森副総裁などの自民党幹部、公明党では井上義久幹事長との関係が深いですから」
 民主党の職員たちの間でも仙谷氏の評判が高い。
「官僚組織を効率よく回して、かつ、政府という巨大組織を回せるのは仙谷氏しかいない」(ある職員)
 復興、社会保障の費用をどう捻出(ねんしゅつ)するのか、ねじれ国会をどう切り回していくのか。身動きがとれない状況の中で、消去法的に浮かんでくるのが、仙谷氏というわけだ。
 政治アナリストの伊藤氏は、あきれ気味に言う。
「誰が有力、有力じゃないというんじゃなくて、どういう総理でないといけないのか、考えないと」
 その上で、野田佳彦財務相を挙げた。
「非常にバランス感覚がいいし、政策通でもある。とんがったところもないから地味だけど、次の政権というのは大震災からの復興に向けて地道に課題を整理していくことになる。こんなときは黙々と汗を流すタイプがいい。パフォーマンス好きで、利に走ったりするような人はダメ」
 野田氏は当選5回の54歳。菅首相が2日の党代議士会で口にした「若い世代への引き継ぎも果たしたい」との条件もクリアする。演説のうまさや面倒見のよい性格には定評があり、党内では約20人のグループを率いている。
 代表経験者の前原誠司前外相にとっては、3月の外国人献金問題での外相辞任劇が痛手だが、政治評論家の屋山氏は「ポスト菅」のトップにその名を口にした。
「前に代表になったときに打ち出した『前原3原則』は非常に賢明な策だった。政策は党内審議の上で多数決で決め、官公労と若干の距離を置く、と。これが実現できたら大変なものだ。彼は意外と頑固なんですよ。これは大切です。今の菅首相のように、人の話を聞いて、しょっちゅうフラフラしてるようじゃダメですから」
 やはり、今の首相が反面教師だ。
 政治ジャーナリストの野上氏は、海江田万里経済産業相を挙げた。
「菅支持の勢力がイニシアチブを取るのは難しい。鳩山、小沢、菅、中間派それぞれの勢力から支持をとりつけるとすれば、海江田氏あたりが浮上するのではないか」

◆菅以外ならOK 実務なら自民?◆
 政治評論家の森田氏は国民新党の亀井静香代表を推した。
「今は何より被災地のことを考えるべきでしょう。そのためには30万人の役人を動かせる人が必要。そういう意味で、亀井氏でしょう」
 識者の意見に共通するのは、「誰がやっても菅さんよりはマシ」ということだ。
 今回の騒動で、またずっこけた自民党。谷垣禎一総裁に対し、経済界からは「ポスト菅」とする声があった。RCMジャパン最高投資責任者の寺尾氏だ。
「東日本大震災からの復旧、復興を考えると、民主党より自民党のほうが経済的な感覚があり、政策の実務能力がある。がれきの処理や仮設住宅、賠償金の問題などで、よりスピーディーな対応が期待できると思う」
 同志社大大学院教授の浜氏は大胆な意見だった。
「わからないというのが正直なところですが、突拍子もないところでいうと、江田五月法相でしょうか。ドン・キホーテ内閣ですね。ピュアなイメージと気構えだけを示し、周りに枝野さんたちを実動部隊として置けばいいんじゃないですか」
 前出の民主党職員はまた、思い切った若返りも提案した。当選3回の50歳、馬淵澄夫首相補佐官だ。
「まだ3回生だから無理だろうけど、彼には期待できる。役所でも民間でも、馬淵と仕事をすると、『この人のために何かをしよう』と、チーム馬淵ができあがってまとまるんです」
 大川興業の大川総裁は、
「菅さんが原発問題にメドがついたら辞めるということは、30~50年かかるんじゃないかと思いますよ。東電が絶えずやらかしてくれますから」
 と笑い飛ばした。

◆「小鳩菅は女子中学生レベル」 東京・新橋で50人に聞きました◆
 菅首相が「なんとなく辞意表明」した日、東京・新橋駅前に行った。
「30秒しか時間ないよ」という会社員の男性(37)が缶ビール片手に吐き捨てた。
「首相なんて誰がやっても同じだから報道すら見なかったね。印象が悪いのは小沢。この大変なときに(安全性のアピールで)釣りして刺し身食ってんじゃねーよ!」
 不満を思い出したようで話は10分以上続いた。ほかにも小沢氏については、
「あれだけあおっといて採決を欠席だなんてナシ。彼がいる限り民主党が一枚岩になれない」(40代男性)
 就活の「売れ残り」という男子大学生3人組は、
「原発対応にもたついたせいで就職難問題は置いてきぼり。被災者だけでなく僕らも先行き不安。こっちは職すらないのに、日本中から呆れられても役職にしがみつく菅サンの感覚って、どんだけズレてるんだか」
 可愛い顔して、言うときは言う。
 新橋では、カン違い首相との「約束」で混乱を招いた鳩山氏の評判も悪かった。
「"お呼びでない"のに現れては宇宙人のように意味不明の行動。国民というか地球人の邪魔」(50代男性)
 会社員の女性(25)は、小鳩菅の3人組を、
「やってることが女子中学生の派閥争いレベル。こんな彼氏にも上司にもしたくない男ワースト3が日本を動かしてるなんて悲惨!」とバッサリ。前言を翻して「信任」に甘んじた民主党議員もすべて悪いと憤る。
 一方、"ポスト菅"には、震災後の"不眠会見"で注目を集めた枝野幸男官房長官や、前原氏、蓮舫行政刷新相、「既成政党は信用できない」(50代男性)と渡辺喜美氏の名も挙がった。
 女性に多いのが、
「時代錯誤のオヤジ政治家と違って、きっと『空気を読む』ことができる」(30代)
 などと小泉進次郎氏を半ばヤケクソで推す声。男性からは、「お手並み拝見したい」(30代)という「小沢待望論」もあった。
 とはいえ、全体に漂うのは「誰が首相でも変わらない」という冷ややかな空気。小雨降る夜、ほろ酔いサラリーマンたちは、「腹黒い政局より"黒い雨"が気になる」とつぶやきながら家路を急いでいた。
 
■識者が審査した「戦犯」ランキング■
                菅直人 小沢一郎 鳩山由紀夫 谷垣禎一 森喜朗 古賀誠 伊吹文明
野上忠興             10    -    -    -    -   -   -
(政治ジャーナリスト)
歳川隆雄             -     4    3    -    1   1   1
(「インサイドライン」編集長)
伊藤惇夫             3     3    4    -    -   -   -
(政治アナリスト)
寺尾和之             8     1    1    -    -   -   -
(RCMジャパンCIO)
屋山太郎             3     4    3    -    -   -   -
(政治評論家)
森田実              10     -    -    -    -   -   -
(政治評論家)
浜矩子              -     4    1    5    -   -   -
(同志社大学大学院教授)
岩井奉信             -     -   -    -    -   -   -
(日本大学教授)
-----------------------------------------------
合計                34    16   12   5     1    1    1
(各氏への取材をもとに本誌で配点した)
週刊朝日