◆原子炉が冷えて「悪夢」が始まる◆


 何とか冷却システムが部分的にも回復して、数カ月後に1~3号機の炉心が冷温停止したとしよう。
 実は、悪夢はここから始まると言ってもいい。
 まず、炉心を冷やすために膨大に出た汚染水をどうするか。既存の原発でも若干の汚染水が出るため、施設内で処理している。放射性物質のうち、放射性ヨウ素は活性炭で吸着し、セシウムはイオン交換樹脂で除去できる。しかし、今回処理するのは通常よりはるかに高濃度の汚染水なのだ。
「イオン交換樹脂がこれほどの濃度でも機能するのかどうか、私にはよく分かりません」(小出助教)
 さらに、一部が溶けて圧力容器の底にたまっている燃料棒をどうするか。
 燃料を取り出すだけで大変な作業になる。高濃度の放射能を帯びているため、放射線を妨げる水中で、しかも遠隔操作ですべての作業をしなければならないからだ。スリーマイル島原発では原子炉上部に巨大な足場が建設され、圧力容器の底で溶けて固まった燃料を切り出す遠隔操作のドリルや、取り出した燃料を水ごと格納する専用の容器が新たに開発、建造された。
「おそらく同様の機材を用意する必要が出てくるでしょう。さらに1号機や3号機では建屋自体が崩壊しているので、燃料取り出し作業の前に、放射能を帯びた残骸を撤去して、建屋そのものを復旧する必要もあります」(宇根崎教授)
 そして最大の問題が、この溶けた燃料の処理だ。
 使用済み燃料の処理事業は、青森県六ケ所村にある日本原燃の再処理工場で試験中だ。全国の原発から出た使用済み燃料棒から、未使用のウランやプルトニウムを取り出して再利用に回し、これ以外の高濃度放射性物質はガラス状物質に成形して、ステンレス製のチューブに入れて貯蔵する。  果たして、このプラントが使えるのか。前出の宮崎名誉教授が指摘する。
「六ケ所村のプラントは燃料棒の形になったものしか処理できません。福島原発の燃料棒は一部が溶けているうえ、海水で冷やしたため、さまざまな不純物が入っているでしょう。これらを除去してからでないと処理は難しい。時間をかけた検討が不可欠です」
 しかも、六ケ所村では事故が頻発し、残った高濃度放射性物質を最終的にどこに貯蔵するのかも決まっていない。
 行き詰まっていた原子力政策のツケが、そのまま福島原発の処理にかぶさってくるのだ。  「スリーマイル島原発では、原子炉の処分に電力会社だけではなく、国が予算と人材を投入して当たりました。福島原発でも同様に、国家プロジェクトでこの作業に当たらなければ、とても成し遂げられないでしょう」(宇根崎教授)
 これは見方を変えれば、「福島原発の処理」という巨額の公共事業が生まれることを意味する。ある専門家は明かす。
「福島原発を処理すれば、廃炉になった原子炉や高濃度放射性物質をどうやって最終処分するかの問題も解決できるかもしれない」
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