手ぐすね引いて待つ「原発復興利権」

放射能漏れが続く福島第一原子力発電所は、たとえ炉心を冷やせたとしても、大量の汚染水と放射能まみれの残骸の処理に最低でも20~30年かかることが分かってきた。国家的な大事業となる可能性が高く、巨額の「原発利権」を目当てに国内はもちろん、米国やフランスからも関係企業や機関が乗り込んできている。

「タンカーを原発に横付けにして、施設内にあふれている放射能で汚染された水を積み込もう」
「特殊な布でつくった覆いを原子炉建屋にかぶせて、漏れ出る放射能を閉じこめてはどうか」
「いや、原発周辺に汚染物質の処理工場や、それをためるプールを造るべきだ」
 福島第一原発について、政府からさまざまな対策案が飛び出し始めた。
 さらに、原発大国のフランスからはサルコジ大統領が来日し、汚染地帯でも活動できるロボットの提供を提案した。また、米国も軍を派遣するなど、海外からの支援の動きも加速している。
 背景には、止まらない放射能漏れや日本政府の混乱に加えて、福島原発の「最終処理」には長い時間が必要なことが分かってきたことがある。原子力工学が専門の京都大学原子炉実験所の宇根崎(うねさき)博信教授が話す。
「炉心を冷やすだけでもおそらく数カ月かかり、その後も原子炉には1年以上、近づくこともできないでしょう。原子炉内部の燃料だけでなく、大量の汚染水や汚染物質が施設内外に残っている。これらすべてを処理するには、最低でもあと20~30年はかかると覚悟すべきです」
 いったい、福島原発は今、どんな状態にあるのか。
「原子炉はこの1週間ぐらい、多少安定してきた」
 体調不良で入院した東京電力の清水正孝社長に代わって陣頭指揮に立った勝俣恒久会長は3月30日、こう説明した。しかし、これを信じる専門家はほとんどいない。
「安定しているなんてとんでもない。まだ不十分なポンプ給水でかろうじて炉心の温度上昇を抑え込んでいるだけで、いつまた危機的状況に陥るか分かりません」
 そう言い切るのは、1999年に茨城県東海村のJCOで起きた臨界事故の対応に当たった元原子力安全委員会委員長代理の住田(すみた)健二・大阪大学名誉教授だ。
 水素爆発を繰り返していた一時期と比べれば落ち着いているように見えるが、問題は何も解決していない。それどころか、今なお一触即発の綱渡り状態が続いている。
 1~3号機はいずれも、圧力容器に入っている燃料棒が長時間にわたって冷却水から出たため、被覆管が破れて中の核燃料が溶け、容器の底に落ちている可能性が高い。十分に冷却しないと、再び高温に達して爆発する危険がある。
 しかし、冷却システムを再起動させたくても、システムがあるタービン建屋の地下には高濃度の放射能を帯びた水がたまっていて、近づくこともできない。そしてこの水は、これまで消防車などで入れたものの、圧力容器から外へ漏れ出たものと見られている。
 つまり、炉心を冷やせば汚染水が増え、冷やさずに汚染水をくみ出しているとまた炉心の温度が上がってくる。身動きの取れない窮地に原発は陥っている。
「どうやって炉心を冷やせばいいのか。今は正直、このこと以外、考える余裕もない状態です」
 京大原子炉実験所の小出裕章助教は頭を抱える。
「消防車でどれだけ水を入れても圧力容器内の水位が上がってこないのは、明らかに容器の密閉性が失われているからです。こんな状態でたとえ冷却システムが動かせたとして、果たして機能するのかどうか。冷却に失敗すると、溶けた燃料が圧力容器の底から出てくるおそれがあります。そうなると、さらに高濃度の放射性物質が出る」

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