◆島の人も原発の電気使うと批判◆


 2009年には中国電力が原発建設予定地の海面埋め立て工事に着手したが、島民の激しい反対運動で中断。現在もほぼ毎日、島民の漁船団が海上で工事作業船を監視し、抗議行動を続けている。今回の取り組みが、膠着状態が続く原発反対運動にも新しい風を吹き込むことが期待される。

 プロジェクトは、島民の9割が参加する「上関原発を建てさせない祝島島民の会」を中心に始まった。NGO環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏、ドキュメンタリー映画監督の鎌仲ひとみ氏らが賛同している。島民の会会長の山戸貞夫さん(60)はこう語る。

 「原発反対運動を30年近く続けてきたわけですが、島の人間は原発で作られた電気を使って生活をしているじゃないかという批判もあった。島の自然の力によって、エネルギー自給は十分可能なはず。我が家でも16年前から既に太陽光発電を取り付けているし、無農薬のびわや手作りの寒干大根の産地直送販売など、島民の多くは昔から環境問題を意識した暮らしを続けてきた。今回のプロジェクトは、我々がこの30年やってきたことの延長線上にあるものだと考えています」

 エネルギー自給率100%とはいっても、自分たちが作った電気を自分たちだけで使うというのは、現行の電気事業法上では難しい。自らが電気事業者となって送電線などのインフラを整えれば可能だが、プロジェクトの自然エネルギー発電で生じた余剰電力を中国電力に買い取ってもらう方法が現実的だ。今までは原発が作った電気を「買って」いた島民が、今度は電気を「売る」側にまわるわけだ。

 試算によれば、島民が暮らすのに必要な電力総計は500~1千キロワット。まずは島内の各家庭に太陽光パネルを順次設置していき、同等の電力をカバーすることを目標とする。ゆくゆくは風力発電や太陽熱温水器、バイオマスも取り入れ、10年後を目標に、島全体のエネルギー生産量が使用量を上回る「エネルギー自給率100%」状態を目指す。

 このプロジェクトを生む大きなきっかけとなったのが、賛同人でもある鎌仲監督のドキュメンタリー映画「ミツバチの羽音と地球の回転」だ。映画の前半では、上関原発建設問題に揺れる祝島を取材し、後半では自然エネルギー政策を積極的に進めるスウェーデンを取材している。

 「80年代に国民投票で脱原発のエネルギー政策を選択したスウェーデンでは、電力自由化が実施され、電気が選べるようになりました。既存の原発で作られた電気と、エコマークのついた自然エネルギーのどちらを使うかは、消費者の選択に任されている。自然エネルギーをベースにした電力供給のベンチャーが次々と立ち上がり、より安く安全なエネルギーを誰もが意識的に選べるのです」(鎌仲監督)

 電力自由化と並ぶこの映画のもうひとつのキーワードが「地域分散型エネルギー」だ。映画に登場する人口5千人の小さな町、オーバートネオは、かつて失業率、所得率ともに国内最悪とされた過疎の町だった。だが地元主導で始めた風力やバイオマスなどの自然エネルギーによって、電力会社に頼らないエネルギーの自給自足を成功させた。林業で出た廃材や家畜のし尿などの「ごみ」も、バイオマスでは貴重な「資源」となる。生まれ変わった町の誇らしげな様子は、未来の祝島の姿に重なって見える。

 「原発など、従来の中央集権型のエネルギーから、自然エネルギーを利用した地域分散型の小規模なエネルギーシステムへ。今、世界のエネルギーは急激にシフトチェンジしています。過疎で取り残された島と言われるけれど、実は祝島は最も未来に近い場所とも言えるのです」(鎌仲監督)

 世界の自然エネルギー動向に詳しく、プロジェクトに加わる環境エネルギー政策研究所の飯田所長も言う。

 「小規模分散型の自然エネルギーは、農業、産業、IT革命に続く"第四の革命"と言われています。その経済成長は著しく、2004年以降は3年連続で60%の成長を見せ、世界的な不況に苦しんだ2008年ですら30%の成長を見せています。自然エネルギー先進国のドイツやデンマークを始め、中国や東南アジアでも急激な成長を見せています。日本は完全に置いてけぼりをくらった状態なんです」

 祝島のプロジェクトを、電力会社はどのように受け止めているのか。中国電力広報室に聞くと、
 「地球温暖化が問題視される中、自然エネルギーによる発電は、当社としても推進し支援していきたいと考えており、余剰電力の買い取りも、他のお客さまと同様に対応させて頂きます」
 と言いつつも、
 「当社としては原子力をCO2削減に最も有効な発電方式と考えており、その点は島民の方にもご理解頂ければと思っています」
 と念押しされた。溝は埋まらないままだが、今回の祝島の試みが、日本のエネルギー政策に一石を投じることは確かだろう。
 

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