亀井静香が爆発

民主党の内ゲバが泥沼化する中、連立のパートナーである国民新党の亀井静香代表(74)の存在感が増している。菅直人首相に「即刻、第3次内閣改造をやるべし」と進言する一方、去就が注目される石原慎太郎東京都知事や小沢一郎元民主党代表、森喜朗元首相らと相次いで密談している。その"腹の内"を聞いた。

――民主党の比例代表選出の衆院議員16人が、小沢氏を党員資格停止処分にするという党執行部の方針に反発し、2月17日に会派離脱届を提出しました。事実上の「倒閣運動」が始まりましたね。

 俺、菅さんに言ってやったの。「連合赤軍事件を思い出した。今の民主党は連合赤軍だよ」ってね。最高幹部だった永田洋子死刑囚が獄中で死亡したが、あの事件は警察時代、俺が指揮して捕まえたの。連中は異を唱えた仲間を片っ端からリンチし、"総括"と称して次々と殺しちゃった。今の民主党も同じことをやってるんだよ。でも、そんなことをやっている暇はない。まずは民主党の総力を結集させないとダメだ。

――亀井さんは2月5日に広島県尾道市で小沢氏と会談しました。

 小沢さんから会いたいと言ってきたので、佐藤公治君(民主党参院議員)のパーティー会場の別室で40分ぐらい話したかな。詳しい中身は言えないが、小沢さんは今、危機的な状況に立っていると思っている。連合赤軍風に言えば"総括"された側だものね。

――1月末には鳩山由紀夫前首相と森元首相、2月14日には石原都知事、自民党の古賀誠、野中広務両元幹事長らとも懇談しました。石原氏は18日の会見で「亀井静香を総理にする話もある。亀ちゃんに『お前やれよ』と言った」と話しています。

 冗談じゃない。うわごとだね。あれは俺を応援する会じゃない。「お前やれよ」っていうのは仲間内ではしょっちゅう言ってる。俺は美容整形をしないと総理は無理だ。この顔で11回も選挙してどんなに苦労したか(笑い)。あの席では俺が石原に「お前、田舎大名(都知事)をやっても仕方ない。国政の大きな舞台で最後のご奉公をしたらどうか」って言ったんだ。今の状況は、閣内で石原の力を使うぐらいのことをしないと乗り切れない。菅さんにもずっとそう言い続けている。森さんや鳩山さんとは、首相経験者として今の日本は恥ずかしいだろうと語り合った。

――菅首相とも最近話をしているんですか。

 さっきも電話で話したよ。小手先ではこの局面を打開できないよと。「あんたの悪いところは、小手先で物事を乗り切ろうとするところだ」って注意した。

――「小手先」というと?

 予算関連法案をパーシャル連合で通すとか、理屈でつまらんことを言う。自民党や公明党、社民党といった野党を、こっちの都合に合わせてテクニカルに使おうとしても無理だよ。
 そもそも、菅さんがこの国をどういう方向に持っていきたいか、強いイメージが国民にも世界にも発信されていない。それが問題なんだよ。
 例えば日米関係でも、自公時代のような「米国のかわい子ちゃん」に戻ることが関係をよくすることにはならない。それを菅さんが勘違いしちゃってさ、もっとかわい子ちゃんになりたいとやっているでしょう。菅さんが前原君(誠司外相)にやらせているのか、前原君が自主的にやっているのか知らないけどさ。
 かわい子ちゃんじゃなくて「気を使わせる大人」にならないとダメだ。北方領土問題や尖閣諸島問題での体たらくもそうだが、国際社会でもっと威厳を持てる国にしないといかんよ。

――当面の難題は、衆参ねじれで予算関連法案成立の見通しが立たないことです。ねじれ国会を乗り切る秘策はありますか。

 こういうときは「挙国一致態勢」でやらなきゃならんのだよ。チマチマした内閣改造をやったから、失敗しちゃったんだ。菅さんは、私が言っていることと似て非なることを、常にやるんだよな。第3次内閣改造をただちにやって、自民、公明、社民、在野にも手を突っ込む。そして菅さんが会見し、「とにかく挙国一致で国難を乗り越えよう」と訴えるんだ。それに対して自民や公明が「党としては協力できない」と返答すれば、じゃあ、自民からはこの人をもらう、公明からはこの人だと、優秀な人を一本釣りして閣僚にすればいい。各党を人材派遣会社にしてしまうんだよ。だって、世論調査を見ても、各政党はいま、国民からまったく期待されていないんだから。名古屋での河村たかし(市長)の圧勝でわかるように、国民は政党政治に何の期待もしていない。これが現実なんだよ。

――大連立のような態勢にするということですか。

 大連立なんかできっこない。自民や公明にそう声をかけても、断るに決まっているんだから。基本はあくまでも民主党政権だけれども、他党の議員にも閣僚で入ってもらう。全部のみ込んでやる。そうすれば、自民も公明も抵抗できなくなる。連立政権ではなく、政党という人材派遣会社から集めた派遣大臣で構成される内閣という新しい形だ。
 あんたのところの優秀な人材を国のためにくれ、と言われて、もし、谷垣さん(禎一・自民党総裁)が断ったら、世間から笑われるだけだよ。「了見が狭い。自民党のために日本があるわけじゃない」ってね。

◆与謝野の起用はマイナスと忠告◆

――第2次改造内閣の目玉として与謝野馨・経済財政相が起用されました。これも亀井さんの「挙国一致」構想に基づくものですか。

 与謝野さんの登用は、俺の主張とは似て非なるものだよ。菅さんには、「与謝野さんが政策マンだという理由だけで入閣させたら、政策遂行能力はかえってマイナスになっちゃうよ」と忠告した。現に俺が言ったとおりになっている。
 内閣は執行部隊で、シンクタンクじゃないの。政策マンだけ集めても仕方がない。要は、役人を使ってその政策を実行できる人材を集められるかどうかなんだ。
 菅さんは、与謝野さんが自民党時代に作った「税と社会保障」の法案をたたき台にして自民や公明が乗れそうな案を作らせ、中央突破しようとしたんだろうが、完全に裏目に出た。挙国一致態勢の一環で起用するならいいけど、与謝野さんだけを入閣させたから反発を買い、内閣が弱体化した。

――菅さんは、亀井さんの挙国一致改造案に、どう反応したんですか。

 むにゃむにゃ口ごもって、「それについてはまた、改めて話をしましょう」なんて言ってたけどね(苦笑)。だから、「チマチマした改造では、この政局は突破できないよ。予算関連法案のことを考えると、全身全霊を込めてすぐにでも第3次改造をやれ」と改めて言ってやったの。
 いま、社民党党首の福島(瑞穂)さんをくどいて、与党にくっつけようと努力している。だけど、社民だけじゃダメだ。全部の政党に網をかけないと、社民も簡単に乗ってこないよ。

――菅首相は何をしたいんでしょうか。

 菅さんは「私は新自由主義者じゃないし、最小不幸社会をつくると公約したし、雇用対策もちゃんとやる」と口では言う。でも、TPP(環太平洋経済連携協定)とかを口走る姿を見ると、新自由主義的なものを目指しているのではないかと思っちゃうんだよ。社民が離れるのもそれが原因だよ。

◆TPPのようなうわごとはダメ◆

――与謝野経財相が仕切る「社会保障改革に関する集中検討会議」の初会合が2月5日に開かれました。その民間委員に、自民党税制調査会長や厚生労働大臣などを歴任した柳沢伯夫氏が就任しました。

 与謝野さんを起用したときもそうだったが、菅さんは、この検討会議についても、事前にひと言も俺に相談しなかった。だから、「あんた、与党のうちに相談せず、こんな大事な会議を作るなんてけしからんじゃないか」と抗議した。すると菅さんは、「これからは直接、私から必ず電話します」と言い訳していた。今後は、そう好き勝手にはさせないよ。(笑い)
 与謝野、柳沢まで加わって、政権の頭脳は自民党と入れ替えになっちゃった。これでは、何のための政権交代なのかわからなくなってしまう。状況を変えるには内閣改造しかない。菅さんはもう何度も失敗しているんだから、早期の改造も仕方がない。

――失敗というと?

 消費税とTPPだよ。言ってはいかんうわごとを言い、新自由主義に走りだした。中身は財務省の案でしょ。2月9日の谷垣さんとの党首討論だって、財務省の手のひらに載って論争していただけ。意味がない。
 菅さんには、「TPPなんてうわごとを不用意に言いなさんな」と注意している。防衛権と関税自主権は国家の二つの柱なんだ。その一つの柱を10年で各国が捨て去るなんてできっこない。一部の国が言っているだけで、最終的に米国、中国、韓国、ロシアだって乗らないだろう。そんな話にのぼせて、農業とか日本のいろんな分野で働いている人を不安にさせるようなことを言っちゃいかん。

――国民新党の下地幹郎幹事長が、2月10日の衆院予算委員会で「予算関連法案を通せなければ、菅首相は退陣に追い込まれる」と言いました。

 俺は連立を組んでいる国民新党の代表だから、仮定の話はしません。首相が国難を乗り切れなかったらどうのこうのと、いま言うわけにはいかないね。(笑い)

――菅首相が政権運営に行き詰まって「破れかぶれ解散」するのではないか、という懸念も出ています。

 解散したらボロ負けし、民主党は消えてなくなる。自民党も勝ちきれないだろう。解散なんかしたら、菅さんは亡国の張本人になるから、できっこない。俺には「解散は絶対しない、総辞職もしない」とずっと言っているよ。「引き続き政権を担いたいなら、今までにない大胆なことを思い切ってやらなければダメだ」と俺は進言している。

――亀井さんは自民党時代に、ねじれ国会を豊富に経験しています。

 衆参のねじれなんて、なんてことない。身内を固めて正面突破し、いい加減な奴らを蹴散らして進めばいい。実に簡単なことなのに、菅さんは連合赤軍のまねごとのような内ゲバを続け、蹴散らす相手に色目ばかりつかっている。逆のことばかりやって、自分で自分の首を絞めている。昨年から俺がずっと言っているのに、ぜんぜん聞かない。どこでハッとその意味に気づくか、だろう。首相は流されちゃいかん。先手先手を打たないとね。 

(聞き手 本誌・森下香枝)

週刊朝日