中国の明朝時代に編まれた、漢方薬を解説した『本草綱目』という本のなかに、「秋石」というすごい薬の話が出てきます。秋石とは、12歳以下の子どもの小便でつくった秘薬のこと。

 だれの知恵かわかりませんが、満月の秋の夜、まだ女性の体を知らない子どもばかり千人を集めて、女体を見せながら放尿させる。その千人分の小便をつぼに集め、何カ月か放っておくと、つぼの底に白い沈殿物がたまる。それを集め、少しの石膏と漢方薬を加え、練って乾燥させる。この奇薬が、勃起力の弱まりや不能によく効いたそうで、古代の中国の王たちが好んで服用したというのです。

 いまとなっては効果のほどはわかりませんが、子どもの小便には、強精強壮にかかわる性ホルモンが、確かに多く含まれている。とんでもない権力を持つ人間でさえ、子どもの小便を飲んでまでやりたいという、人間の性に対する飽くなき欲望には、すさまじいものがありました。

◆バイアグラにはロマンがない◆

 日本も負けていませんでした。江戸の好事家たちは、ハマグリや赤貝を天日にさらして乾燥させ、これを粉末にして「におい袋」に入れ、そのにおいをかぎながらことに及ぶ、なんてことをしていました。上手に干し上げると、なんとも官能的なにおいとなり、立ちどころに欲望を引き起こしたからです。

 鼻をつまんでものを食べてもおいしく感じないように、性も五感が大事です。とりわけ、においが性的な欲望を発動させます。絶倫食を口にするときは、精神的に「効くぞ」と言い聞かせることも大切。こんなの食ったって効かねえや、なんて思いながら口にしたら、やっぱり効かない。セックスというのは、こころと体が連動して成り立つものですから。

 バイアグラなどは、医学的な観点から体の反応を変えさせるわけで、確かに効くんでしょう。しかし、先人たちは「あれが効く」「これがいい」などと試行錯誤しながら、精力のつくものを求め続けてきた。その精神こそが男のロマンじゃないだろうか、と私は思うわけです。バイアグラにロマンはありません。

 最近、私がすごく注目しているのは、クジラに含まれるバレニンというアミノ酸の成分です。一日に何百キロも移動しても疲れを知らないパワーの秘密を研究機関が調べた結果、バレニンに疲労回復効果があることがわかってきたのです。

 どんな人にも効く「絶倫食」はいまだ発見されていませんが、夢のような幻の食を追い続けることが、若さを保つことにつながるんですね。

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こいずみ・たけお 1943年、福島県生まれ。東京農業大学名誉教授。専門は発酵学、食文化論。現在は鹿児島大学、琉球大学、広島大学の客員教授を務めるほか、文筆家としても活躍

【小泉武夫流「絶倫食」の心得】
 その一、 併用がさらなる効果を生む。ニンニクや朝鮮人参とスルメなど、複数の強精食を同時に取り入れると、なおよい。
 その二、 五感、特に、においに敏感になるべし。
 その三、 半信半疑で試すことなかれ。「これは効く」と自分に言い聞かせながら取り入れるべし。

週刊朝日