Q1 ボーナス、どうすればいいですか?
 A 日本では企業がどんどん海外に出ていき、給料を稼ぐ場所が減っています。ならば、お金に稼いでもらうことを考えるべき。それは、投資をすることです。

 Q2 預金ではなく?
 A 現金や預金はいちばん危険です。猛烈な勢いで物価が上がるハイパーインフレが来るかもしれないからです。一生懸命働いて100万円貯めても、タクシーの初乗りが100万円になれば貧乏ですよね。

 Q3 インフレになる?
 A なると思います。国の借金は今年度末に973兆円になる見込みです。毎年10兆円ずつ減らしても100年かかる。こうなると、ハイパーインフレを起こして、973兆円を実質的に意味がないものにするしか考えられません。政治的にはできないので、最終的には金融市場が先導することになるでしょう。

 Q4 日本は「破綻」するというのですか?
 A すると思います。日本は国債を発行し続け、今年度も44兆円の国債を新規発行します。新しく44兆円が必要なのです。多くの国債を買ってきたのは日本の金融機関ですが、その元手は預金です。ふつうGDP(国内総生産)の伸びに比例して預金が増えますが、この20年ほど、日本のGDPは伸びていない。いずれ国債が売れ残る。子ども手当も国家公務員の給料も支払えなくなります。

 Q5 おおげさでは?
 A 1996年、橋本龍太郎政権が財政再建法の制定を打ち出しました。このままいけば財政が「破綻」しそうだと思ったからですが、この法律は停止されました。橋本元首相は空騒ぎをしたのでしょうか?
 その後も財政状態は一直線に悪くなり、当時と比べて、借金額は2・7倍になりそうです。

 Q6 何をきっかけに「破綻」するのですか?
 A 国債入札の「未達」だと思います。これは、発行予定額に応札額が届かない状態を指します。

 Q7 その後の動きは?
 A 「未達」のニュースが流れた途端に日本の金融市場はジ・エンドでしょう。いま金融市場では先物商品の取引が大きいのですが、これが連日ストップ安で市場が開かれないような状態に陥るでしょう。それをみて現物も連鎖して下がる。国債だけでなく株も円も暴落し、トリプル安です。

 Q8 投資家だけの問題ではないのですか?
 A 銀行の「とりつけ騒ぎ」が起きると思います。たとえば、国内最大の銀行であるゆうちょ銀行では、保有する資産の8割が日本国債です。国債価格が暴落したら、貯金している人も心配になって、お金を取り戻そうとするでしょう。

 Q9 銀行が倒産するのですか?
 A そうならないように政府と日本銀行が超法規的な対策を練るでしょう。国債入札の未達は民間銀行が国債を買わないから起きるので、法改正して日銀が政府から直接買えるようにします。民間銀行からも国債を買い取り、お金を渡して騒ぎを沈静化させる。日銀が懸命に紙幣を刷るので、お金の価値が下がりインフレにつながります。

 Q10 菅直人政権は「強い財政」を掲げ、「2020年度までに基礎的財政収支(PB)を黒字化する」と言っていますが?
 A PBというのは、国債発行収入を除いた歳入と、国債の元利払いを除いた歳出を比べたものです。PBが黒字化しても、借金が積み上がることはあります。
 しかも景気がよくなれば金利は上がりますから、利払いの金額も大きくなる。いまでも国債の元利払いで20兆円かかる一方で税収が37兆円しかないのですから、「PBの黒字化」というのは、ごまかしでしかない。

 Q11 消費税率を10%に引き上げてもだめですか?
 A 今年度は「埋蔵金」などの税外収入10兆円があったので、新規国債が44兆円で済んだ。でも、「埋蔵金」は一度掘ったらおしまいです。
 一方で、消費税を5%幅上げると、国税分を4%とすれば、増収は10兆円弱になります。「埋蔵金」の分を補填するので精いっぱいです。

 Q12 「法人税率の引き下げ」も掲げていますが?
 A 法人税率を引き下げても、財政面では大きな影響がありません。なにしろ、昨年度の法人税収は5兆~6兆円にとどまるとも言われます。

 Q13 では、日本財政はいつ「破綻」するのですか?
 A わかりません。大地震と同じで、明日かもしれないし、5年後かもしれない。今年「破綻」する確率も3割あると思っています。来年度の予算を組めない可能性があるからです。

 Q14 「破綻」の確率が3割なら、残りの7割に賭けたほうがいいのでは?
 A 7割、つまり「破綻」を回避すれば日本株は上がると思いますが、3割のことが起きたときに影響があまりにも大きすぎる。積極的な運用は危険です。

 Q15 では、どう運用すべきですか?
 A まず、国を頼ってはいけません。災害が不安なときは保険をかけるでしょう。運用でも「保険」をかけることを気にする時期です。

 Q16 「保険」とは?
 A 財政が「破綻」しても影響を受けないものへの投資です。持ち家を含めて、日本国内に持っている資産は、一時的にはダメージを受けてしまう。それを相殺するため違ったものに分散して投資すべきです。

 Q17 インフレの兆候が見えてからでは遅いですか?
 A 国債入札の未達から始まるシナリオであれば、一瞬でインフレになります。

 Q18 ボーナスのうち、どれぐらいを「保険」に回すべきですか?
 A 円建て資産をどれだけ持っているかで変わります。すべて円建てであれば、今回のボーナスでは、投資できる金額すべてを「保険」に回す時期だと思います。

 Q19 どんな金融商品が「保険」ですか?
 A 財政問題の解決に向けて、世界的に中央銀行がお金をどんどん供給し、インフレが強まっています。こうした状況に強い株や不動産商品を選ぶべきです。

 Q20 具体的には?
 A 「保険」としては米ドル建て資産をお薦めします。今後いちばん強いのが米国経済だと考えているからです。日本の財政が「破綻」すれば円安になるので、為替だけで利益を得られます。

 Q21 米国株ですか?
 A そう思います。具体的には、よく知られている「ダウ工業株平均」に採用されている30銘柄から選ぶのがいいでしょう。コカ・コーラやウォルト・ディズニーなど、なじみのある会社ばかりです。

 Q22 米国株の値動きをどう確認すればいいですか?
 A わたしはインターネットで、無料の「CNNマネー(※)」を見ています。日本語であれば、日本経済新聞の夕刊にも載っています。

 Q23 米国の債券は?
 A 株だけでは心配な人はドル建て債券もいいでしょう。ただ、債券はインフレになると価格が下がります。その影響を避けるには満期までの期間が2~3年以内と短いものがいいでしょう。米国債以外であれば、発行組織の信用度(健全性)をよく確認しましょう。株にしろ、債券にしろ、運用をプロに任せる投資信託もいいでしょう。

 Q24 投資信託では、どんな商品がいいですか。
 A ドル建て債券や米国株で運用する投資信託がいちばん魅力的かもしれません。ドル建てのMMFも選択肢に入りますね。

 Q25 ドル建て商品はどうやったら買えますか?
 A 米国株などは日本の証券会社の店舗に行けば買えます。インターネット証券でも買えます。

 Q26 欧州はなぜよくないのですか?
 A 財政危機のギリシャは欧州通貨ユーロから離脱すると思います。財政赤字に陥った国の最も効果的な政策は輸出を伸ばす作用などがある通貨安ですが、ギリシャはユーロ国である以上、これができません。ギリシャ以外にも、続々とユーロから離脱する国が出てくるかもしれません。そういうときにユーロ建て資産は買いにくいですね。

 Q27 BRICsも注目を集めていますが?
 A BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)は、経済は強い半面、金融市場が小さすぎ、売りたいときに売れないリスクがあります。BRICs経済が本当に強いと思うなら、そこに進出している日本や米国の企業の株を買えばいいでしょう。

 Q28 日本の金融商品は?
 A ハイパーインフレがくれば、日本株も将来値上がりしますが、日本財政の「破綻」による混乱期につぶれない企業かどうかを考えて銘柄選びをしてください。

 Q29 日本株の狙い目は?
 A 円安が進むと業績が伸びる輸出株でしょう。「破綻」するのは日本の財政であって日本経済全体ではないので、日本が生きていくために必要なもので外資が入りにくい業種、電力やガスなどもあるでしょうか。でも、ある程度は海外に分散投資をすべきです。

 Q30 不動産商品は?
 A リート(不動産投資信託)や不動産会社の株でしょう。為替の利益も狙うつもりならドル建てがいいでしょうね。

 Q31 マンションを買うのはどうですか?
 A ハイパーインフレが起これば値段が上がります。ただ、借金で買う場合には、混乱期にきちんと元利金を払えるめどがあるか考えてからにしてください。自分が失業すれば払えませんし、賃貸に出す場合も、テナントが倒産していなくなる危険性があります。

 Q32 住宅ローンはどうすればいいですか?
 A わたしなら、早めに変動金利型から固定金利型に変えます。固定金利のほうが金利は高いのですが、それも「保険」だと考えてください。

 Q33 金がいいという人もいますが?
 A 世界のインフレ率に価格が連動するので悪くはありませんが、オールマイティーではありません。金の価格はドル建てなので、日本で金を売買するときには、金自体の価格だけではなく為替にも影響されます。日本でハイパーインフレがくると、円安となって為替ではもうかる半面、金自体の価格が日本のハイパーインフレに追いつくほど上がるかは疑問です。

 Q34 藤巻さんが言う「保険」で損はしませんか?
 A ずっと「破綻」しなければ、損する場面もあるでしょう。しかし、損しても、「保険料」と考えるべきです。万が一、「破綻」が起きた場合、ドル建て資産でいくぶんでも救われる。まさに火災保険と同じ。火災が起きなければうれしい。

 Q35 未来はそんなに暗いのですか?
 A 韓国では、原因は違いますが、97年に通貨危機で「地獄」をみました。それが、今年の実質GDPの伸び率を5・8%と上方修正するなど、実体経済でも企業業績でも日本を凌駕しています。ウォン安のおかげでしょう。
 日本もトリプル安が起これば、10年後には大回復している可能性があります。ただ、当初の混乱はすさまじいと思われるので、その準備をする必要があります。大震災に備えて避難訓練をしておくのと同じです。 (構成 本誌・江畠俊彦)
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※ http://money.cnn.com/
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 ふじまき・たけし 1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを経て、現在は投資助言会社「フジマキ・ジャパン」代表取締役。藤巻氏の著書『日本破綻 「その日」に備える資産防衛術』(朝日新聞出版)では、ここで紹介しきれなかった運用術の詳細が解説されている


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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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