「全面勝訴です! 不法行為が認められました!」

 日本航空(JAL)の客室乗務員のひとりは喜びの声を漏らした。

 10月28日、JALの客室乗務員らが、社内最大の労働組合に対し、プライバシー侵害などを理由に損害賠償を求めてきた裁判がほぼ願ったとおりの形で終結した。とはいえ、当然の結果だろう。それほど"侵害"の度合いはひどかった。

 07年2月、本誌の報道で発覚した、いわゆる「監視ファイル」問題。9千人以上の客室乗務員の個人情報が、150余りの項目にわたって不法に集められていたのだが、そのファイルの内容をざっと振り返ると、以下のようなものだった。

 ▽「左翼的思想あり」「右翼」「創価学会」......など思想・信条にかかわる記載。
 ▽「流産」「脳波検査」「精神病」......といった病歴・治療診断歴。
 ▽「ブス」「おでぶさん」「宇宙人」「合コン狂い」......という差別的な言葉。
 ▽「父親は日教組」「総会屋の娘」「旦那アナウンサー」......というような家族についてのあられもない記述。

 こうしたファイルが常日頃、ともに働く同僚や上司の発言、会社の人事データなどをもとにできあがっていたのである。当人たちにしてみればたまったものではなかろう。それを考えると、むしろ今回の判決では物足りないかもしれない。
 その最大の理由は、会社の関与が認定されなかったことだ。会社側は裁判途中で賠償金を支払っているにもかかわらず、である。

 さらに、判決を機に一丸となって会社再建に取り組もうという希望をうち砕くような現実が、目の前にあり、せっかくの勝訴に水を差しているともいう。

 「勝訴した原告のなかには、早期退職を迫られている人がかなりいます。断れば整理解雇の可能性も......」(別の客室乗務員)

 「監視ファイル」の次が整理解雇とは、なんともむごい仕打ちである。社内の雰囲気は最悪だという。人心が乱れては再建はおろか、安全運航も心もとないだろう。 (時任兼作)


週刊朝日