上杉:そもそも投資で損した人を全面的に“被害者”と言えるかどうか。彼らはリスクを承知で株を買っていたわけですから。

山口:当時の特捜部長が大鶴基成さんという人で、正義感の非常に強い人らしいんです。朝日新聞のひと欄でも、「欲得ずくで動く人間は許せない」とか、「まじめに働いている国民が『こんなことがまかり通っていいのか』と憤慨するような事案を摘発していく」といった抱負を語っている。そんな大鶴さんからすれば、そもそも株で儲けようとする輩はけしからん、だから大損して当然だ、と思ったのかも。月曜にガサを打ったということはね。そしてホリエモンは「欲得ずくで額に汗しない人間」に見えたのでしょう。でも、これって法の支配じゃなく、感情の支配じゃないですか。

上杉:それは単に大鶴さんの思い込みで、堀江さんがどれだけ働いているかを知らない、根拠のない先入観です。言わせてもらえば、逆に検事ほど額に汗しない職業はないですよ。

山口:確かに。給料はヒラでも高額だし、事務官という秘書もつくし。売り上げとかのノルマもない。退官したら“ヤメ検”で企業顧問になるか、公証人として一生食えるからね。

上杉:検事といっても所詮は役人ですから。それをあたかも「正義の砦」のようにまつり上げ、単なる証券取引法違反を“大疑獄”のように報じるメディアのほうがどうかしている。

山口:正直に言えば、ぼくらも当初は「堀江=巨悪」情報を信じていた。成功した若者への嫉妬もあったし(笑)。週刊朝日もライブドアにガサが入った直後には「虚業家ホリエモンの末路」なんていう大特集を組んだ。でも、その後の裁判をきちんとフォローすると、検察が言っていたことが、ほとんどデタラメだったことがわかってきた。ぼくらは検察の世論操作の道具に使われていた。

上杉:私はそれを、官僚(検察)と報道が一体となった「官報複合体」とずっと呼んできたんです。検察は自らの“手柄”を大きくしたいがために、どんな微細な違反でも大疑獄事件に見せようと演出する。それに加担しているのが記者クラブメディアです。

山口:検察官の個人的欲望のために、世の中の人がことの本質を見失ってしまう現状は非常に怖い。一連の小沢捜査によるデマ情報が、政権支持率や世論にどれだけ影響を与えているか。

上杉:だから、それは検察というよりメディアの問題なんですよ。前から言ってるじゃないですか。

山口:そりゃ、そうだけど。でも、検察のやり方もヒドすぎるのでは?

上杉:それは、まだ編集長が検察に期待と幻想を持っているからですよ。でも残念ながら古今東西、権力は必ず暴走する。それをチェックするのが世界のジャーナリズムの常識です。それがこの国ではできていないどころか、逆に迎合してしまっている……。

山口:確かに。“検察モンスター”をつくり上げたのは、半分以上、われわれメディアの責任ですね。

上杉:いや、9割以上じゃないですか。

(ジャーナリスト・上杉隆 本誌編集長・山口一臣)

週刊朝日