セミの最期は澄んだ空を見ることさえできない (3/3) 〈東洋経済〉|AERA dot. (アエラドット)

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セミの最期は澄んだ空を見ることさえできない

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稲垣栄洋東洋経済
日本には36種1亜種のセミが生息している(gettyimages)

日本には36種1亜種のセミが生息している(gettyimages)

 一方、活動量が大きく、子孫を残さなければならない成虫は、効率よく栄養を補給するために篩管液を吸っている。ただ、篩管液も多くは水分なので、栄養分を十分に摂取するには大量に吸わなければならない。そして、余分な水分をおしっことして体外に排出するのである。

 セミ捕り網を近づけると、セミは慌てて飛び立とうと翅の筋肉を動かし、体内のおしっこが押し出される。これが、セミ捕りのときによく顔にかけられたセミのおしっこの正体である。

 夏を謳歌するかのように見えるセミだが、地上で見られる成虫の姿は、長い幼虫期を過ごすセミにとっては、次の世代を残すためだけの存在でもある。

●繁殖行動を終えた成虫に待つのは…

 オスのセミは大きな声で鳴いて、メスを呼び寄せる。そして、オスとメスとはパートナーとなり、交尾を終えたメスは産卵するのである。

 これが、セミの成虫に与えられた役目のすべてである。

 繁殖行動を終えたセミに、もはや生きる目的はない。セミの体は繁殖行動を終えると、死を迎えるようにプログラムされているのである。

 木につかまる力を失ったセミは地面に落ちる。飛ぶ力を失ったセミにできることは、ただ地面にひっくり返っていることだけだ。わずかに残っていた力もやがて失われ、つついても動かなくなる。

 そして、その生命は静かに終わりを告げる。死ぬ間際に、セミの複眼はいったい、どんな風景を見るのだろうか。

 あれほどうるさかったセミの大合唱も次第に小さくなり、いつしかセミの声もほとんど聞こえなくなってしまった。

 気がつけば、周りにはセミたちのむくろが仰向けになっている。夏ももう終わりだ。

 季節は秋に向かおうとしている。

(稲垣栄洋:静岡大学農学部教授)


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