タコの最期は涙なくしては語れないほどに尊い (2/3) 〈東洋経済〉|AERA dot. (アエラドット)

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タコの最期は涙なくしては語れないほどに尊い

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稲垣 栄洋東洋経済
タコがどう最期の時を迎えるか、知っていますか?(gettyimages)

タコがどう最期の時を迎えるか、知っていますか?(gettyimages)

生き物の死にざま

稲垣 栄洋

978-4794224064

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 魚の中には、生まれた卵や稚魚の世話をするものもいる。子育てをする魚類は、とくに淡水魚や沿岸の浅い海に生息するものが多い。狭い水域では敵に遭遇する可能性が高いが、地形が複雑なので隠れる場所はたくさん見つかる。そのため、親が卵を守ることで、卵の生存率が高まるのである。一方、広大な海では、親の魚が隠れる場所は限られる。下手に隠れて敵に食べられてしまうよりも、大海に卵をばらまいたほうがよいのだ。

 子育てをするということは、卵や子どもを守るだけの強さを持っているということなのである。

 また、魚類では、メスではなく、オスが子育てをする例のほうが圧倒的に多い。

 オスが子育てをする理由は、明確ではない。ただし、魚にとっては卵の数が重要なので、メスは育児よりも、その分のエネルギーを使って少しでも卵の数を増やしたほうがよい。そのため、メスの代わりにオスが子育てをするとも推察されている。

 しかし、タコはメスが子育てをする。タコは母親が子育てをする海の中では珍しい生き物なのである。

●一生に1度の大イベント

 タコの寿命は明らかではないが、1年から数年生きると考えられている。そして、タコはその一生の最後に、1度だけ繁殖を行う。タコにとって、繁殖は生涯最後にして最大のイベントなのである。

 タコの繁殖はオスとメスとの出会いから始まる。

 タコのオスはドラマチックに甘いムードでメスに求愛する。しかし、複数のオスがメスに求愛してしまうこともある。そのときは、メスをめぐってオスたちは激しく戦う。

 オス同士の戦いは壮絶だ。何しろ繁殖は生涯で1度きりにして最後のイベントである。このときを逃せば、もう子孫を残すチャンスはない。激高したオスは、自らの身を隠すために目まぐるしく体色を変えながら、相手のオスにつかみかかる。足や胴体がちぎれてしまうほどの、まさに命を懸けた戦いである。

 この戦いに勝利したオスは、改めてメスに求愛し、メスが受け入れるとカップルが成立するのである。そして相思相愛の2匹のタコは、抱擁し合い、生涯でたった1回の交接を行う。タコたちは、その時間を慈しむかのように、その時間を惜しむかのように、ゆっくりとゆっくりと数時間をかけてその儀式を行う。そして、儀式が終わると間もなく、オスは力尽き生涯を閉じてゆく。交接が終わると命が終わるようにプログラムされているのである。

 残されたメスには大切な仕事が残っている。

 タコのメスは、岩の隙間などに卵を産みつける。

 ほかの海の生き物であれば、これですべてがおしまいである。しかし、タコのメスにとっては、これから壮絶な子育てが待っている。卵が無事にかえるまで、巣穴の中で卵を守り続けるのである。卵がふ化するまでの期間は、マダコで1カ月。冷たい海に棲むミズダコでは、卵の発育が遅いため、その期間は6カ月から10カ月にも及ぶといわれている。


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