インド人が驚く日本の「ナン」独自すぎる進化
●日本での進化を担った「インネパ料理店」
1970年代から1990年代にかけ、このロンドンスタイルを取り入れたモティ、サムラート、ラージマハール、マハラジャといったインド料理店が日本で大人気に。豪華な内装に、クリーミーなカレー、そして豪快でエキゾチックなタンドリー料理、ふかふかのナン。すでにヨーロッパ人向けにアレンジされたスタイルだっただけに、日本人にも受け入れやすかったのだろう。
以降このスタイルは、「日本人に一番うけるスタイル」として多くのインド料理店が採用し、日本人にも広く受け入れられていき、完全に定番化する。
ところが、このロンドンを経由したスタイルは、日本でその後さらなる大進化を遂げることになる。その中心的な役割を担ったのが「インネパ店」だった。
インネパ店とは、ネパール人が経営するインド料理店の通称だ。インド料理といえばインド人経営が一般的かと思いきや、近年はインド人経営の店よりインネパ店のほうが多いといわれる。仕事とライフワークで日本全国のインド料理店を長年巡ってきた前述の小林氏もそれを実感しているという。
「数としてはインネパ店のほうが圧倒的に多く、今現在も増え続けています。もともとネパール人は、インド人より人件費が安いうえ真面目で素直な人が多いということで、1970~1980年頃から日本のインド料理店でよく雇われていました。そして1990年代以降、彼らが独立してインド料理店を始めたのが、インネパ店の起こりといわれます。
お店が1店あると、従業員として地元のネパール人を日本に数人呼べるので、ネパール人がたくさん来日しました。さらにそこから独立する人も出て、インネパ店はどんどん増加。それにより、20年ほど前はインド料理店といえば1駅に1店くらいしかありませんでしたが、今や4~5店あることも普通になっています」(小林氏)
インネパ店の急増は、日本で確立されたインド料理のフォーマットを、より進化させることになる。前述の稲田氏はこう話す。
「日本人が喜ぶものをということで、ナンはどんどん大きく、甘く、ふかふかになっていきました。また、意外と気づきにくいところで大きかったのが、カレーのグレービー(汁気)の分量です。以前はグレービーと具の分量はおおよそ半々だったのが、グレービーが多いカレーに慣れ親しんだ日本人のニーズに応え、今やグレービー8・具2くらいの割合になっています。
ほかにも、以前はあったインドの前菜は生野菜サラダに変わり、さらに近年はそれを生春巻きに変える店もあります。こうして日本人が好みそうなものを徹底的に追求することで、他国のインド料理にはまずない、日本ならではのスタイルが生まれました」
こうした流れは、インド料理に対するネパール人とインド人のスタンスの違いが大きく関係していると小林氏は言う。