――バックパックをしようと思ったきっかけは何ですか

 恥ずかしいですが、一言で言うと「自分探し」ですね。ちょうど大学1年の3月に東日本大震災があり、その時に「自分もいつ死ぬか分からないな」みたいな気持ちになったんですよね。当時の東京は停電が起きるなど、今のコロナ禍のように雰囲気が緊迫しており「やりたいことは早めにやんなきゃだめだな」と思うようになりました。また、部活で長期休みの期間中もまとまった自由な時間を取ることができなかったこともあり、ここで思い切って1年休学し、今まで経験のなかった海外旅行をしてみようと決断しました。

――バックパック中の思い出はありますか

 現地の日本人の方と会ったことです。カンボジアに行った時は、現地のNPOで働いていらっしゃる方と会いました。そういう志を持って活動されている方はテレビではよく見ていましたが、いざ自分の目の前にしてみると「こういう人って本当にいるんだな」と衝撃を受けました。

 あとバックパックなので、とても自由なんですよ。明日どこ行くのか、それともどこへも行かないのかも自分次第という生活でした。高校生までは学校があり、大学も授業や部活などがあるなど、外部要因によって生活が決められていましたが、そこでは自分で全てを決めなければならず、しんどかったですね。誰にも気に掛けてもらえず、自由とはこういうことなんだと気付きました。一方で、自由なのは別に海外での生活に限ったことではなく、日本にいても、大学への進学や部活など全部自分が選択したことであり、自由であることの恐ろしさを感じました。

――後期課程での生活の様子はどうでしたか

 後期課程は工学部建築学科に進学しました。昔から折り紙や工作が好きで、ものとして残ることに愛着を抱いていたことに加え、当時建築学科は人気も進学選択の点数も今ほど高くなかったことが大きいですね。当時は特にやりたいことが定まっていなかったので、だったら元々考えていた建築学科が良いかなとも思っていました。進学後も部活とバイトが中心で授業にはあまり行かず、生活はあまり変わりませんでしたね……(笑)。卒業論文執筆の際にようやくちゃんと研究の初歩に触れたという感じです。古くなったコンクリートにさまざまな薬剤を塗り、修復の度合いを比較する研究をしていたのですが、毎日研究室で測定や記録、計算などをする中で、研究ってこうやって地道にやっていくんだなと実感しました。

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