アイヌ目線の語りが難しいところもあった。それはアイヌの歴史に関する語り。「抑圧を物語る歴史的資料を展示するなどにとどまり、淡々としたものになっています」。アイヌ出身の歴史研究者が不足し、アイヌ目線の語りが難しい側面があるからだという。代わりに映像でアイヌの人たちが受けてきた差別・偏見を自ら語る展示を設けた。

 開業に際して、ウポポイはアイヌ文化の観光産業化との批判もあった。これに対し、佐々木館長は「観光としてアイヌ舞踊や工芸品を見てもらうことで、アイヌの伝統技術の向上・継承につなげることを目指しています」と語る。

 今後は、日本のみならず、世界の人にもアイヌ文化に触れてもらう拠点としたいと話す。「アイヌ文化を接点にして、世界中からさまざまな人が白老の地に集まり、人類の多様性を考えることで民族共生へのヒントが得られると考えています」

落合 研一(おちあい けんいち)准教授(北海道大学アイヌ・先住民研究センター) 
2007年北海道大学大学院修士課程修了。修士(法学)。同大学助教を経て、14年より現職。

佐々木 史郎(ささき しろう)館長(国立アイヌ民族博物館) 
1985年東京大学社会学研究科(当時)博士課程中退。国立民族学博物館教授を経て、2020年より現職。

(文/桑原秀彰)