選挙ではなく、くじ引きで政治家を選ぶ時代は来る?(※写真はイメージです/朝日新聞社)
選挙ではなく、くじ引きで政治家を選ぶ時代は来る?(※写真はイメージです/朝日新聞社)

 米大統領選挙の記憶も新しいが、選挙は民主主義に不可欠だとよく言われる一方で、機能不全も指摘されている。そんな中、選挙ではなく、国民の中からくじ引きで政治家を選ぶシステム「ロトクラシー」が、選挙民主主義の代替案として注目を浴びている。政治哲学などを専門とする東京大学大学院総合文化研究科博士2年の山口晃人さんに取材した。(東大新聞オンラインより転載、一部改変)

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■くじ引きで政治家に!?

 「ロトクラシー」とは、Lot(抽選、くじ引き)とCracy(政治、支配)を組み合わせた造語である。山口さんは、ロトクラシーとは「裁判員制度の立法バージョン」だと説明。つまり選挙ではなく、国民の中からくじ引きで代表者を選ぶシステムだ。

 この仕組みは最近になって生み出されたものではなく、古代アテネ、古代ローマ、中世のイタリアなどでも採用されていた。アリストテレスやルソーなどの思想家も、選挙は貴族政的(政治権力が少数の人々に集中している状態)であるのに対しくじ引きは民主政的だと主張しており、近代の代表制民主主義が始まるまではこのような考え方が西洋社会では浸透していた。

 しかし米独立革命後、選挙制が普及し、くじ引きは使われなくなった。20世紀の終わりから、地方行政の意思決定などに無作為抽出された市民が参加する動きが徐々によみがえる。それを背景にさまざまな実証研究がなされ、抽選制の可能性が近年再び本格的に議論されるようになってきた。

 ロトクラシーの優位性は、被選挙権が実質化され機会の平等が担保される点にある。選挙では、当選に必要な資金や知名度、世襲議員や富裕層の政治的影響力の増加など、さまざまな原因により政治家になる実質的な機会は一部の人間に限られてしまう。これは、一般市民より政治的に有能な人材が選ばれるという面においては良いが「国民を代表して政策決定を行う」という代表者の性質が失われる。その結果、意思決定の結果が一般市民の多数意見と異なってしまう。対してロトクラシーでは代表者は無作為に選出されるため、一般市民の考えがそのまま政治に反映される可能性が高い。だからこそ選挙民主主義の代替案として近年注目されている。

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