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気象庁によると、海洋生態系に大きな影響を与えることが懸念されている海洋酸性化が、日本近海で、世界と同程度の速さで進行していることが分かりました。

日本近海で海洋酸性化が進行 世界平均の速さと同程度

化石燃料の燃焼などにより人為的に大気中に排出された二酸化炭素のおよそ30%は海洋に吸収されています。二酸化炭素が海水に溶けることにより、長期的に海水のpHは少しずつ低下(酸性化)しており、これを海洋酸性化と呼んでいます。海洋酸性化が進むと、サンゴや貝類などの海洋生物が炭酸カルシウムの骨格や殻を作ることを阻害されるなど、海洋の生態系に大きな影響を与えることが懸念されています。気象庁は、海洋観測で得られたデータを用いて、日本の近海の海面付近のpHの変化の状況を日本南方、関東沖、北海道周辺・日本東方、日本海、九州・沖縄の5海域に分けて調査しました。これまで観測データの不足から日本近海の海洋酸性化の実態は詳細に把握できていませんでしたが、近年、気象庁海洋気象観測船をはじめ、これらの海域での観測データが増えてきたことを受け、過去に遡って海面のpHを推定する手法を開発し、日本近海の海洋酸性化の実態把握が可能となりました。いずれの海域においても、海面付近で酸性化が進んでおり、日本近海で平均すると1998年から2020年にかけて10年あたり約0.02の速度でpH(※)が低下していることが明らかになりました。このpH低下速度は、世界平均の速さ(10年あたりおよそ0.02低下)と同程度です。

※pH:水素イオンの濃度により表される、酸性・アルカリ性の度合いを示す指数。酸性では7より小さくなり、アルカリ性では7より大きい値となる。

海洋酸性化により懸念される影響

海洋生態系への影響:海洋酸性化の進行は、海洋の生態系に大きな影響を与える可能性があります。例えば、生物多様性の宝庫となっているサンゴ礁では、その発達や形成が阻害され、プランクトン、貝類、甲殻類といった生物は、殻や骨格の成分である炭酸カルシウムが溶出して小型化するのではないかと考えられています。今後酸性化が進めば、水産業や、サンゴ礁等の海洋観光資源に依存する観光産業などの経済活動への影響も深く懸念されます。

海洋の二酸化炭素吸収能力の低下:海洋が大気中の二酸化炭素を吸収する能力について、海洋酸性化の進行がさらに進めば、将来、その能力が低下する可能性が指摘されています。その結果として、人間活動によって排出された後に大気中に留まる二酸化炭素の割合が増え、温暖化が加速することが懸念されます。これは、弱アルカリ性の海水が酸性側に変化してゆく(pHが低下する)ことで、化学的に二酸化炭素が海水に溶けにくくなるためです。