北海道や東北の民家の庭先、公園や街路樹などでよく見られるイチイの木は、秋になると小さな赤い実をつける針葉樹。冬になっても枯れない常緑樹で、民家の庭で丸っこい円錐形に刈り込まれている姿をよく見かけます。子どものころ、この赤い実をつまんで食べたという思い出がある昭和世代も多いのでは。このイチイ、北海道では「オンコ」とよばれ、黄色い実をつける珍しい品種もあるとか。今回はこのイチイについてご紹介します。

秋に赤い実をつける「イチイ」。庭木や公園でよく見かける

イチイは、イチイ科イチイ属の常緑針葉樹。雄木と雌木があり、雌木は秋になると赤い実をつけます。生長が遅いので、北海道などでは庭木や街路樹などでよく見られますが、日本全国に分布し、高さ10m以上、太さ0.5~1mにもなります。材木としては木肌がなめらかで光沢があり、耐久性が高いのが特徴。建築では装飾材のほか、彫刻や寄木細工、小型の家具などに利用されます。
葉は濃い緑色で、一つひとつの葉は平たく、先がややとがっていますが、松のように指に刺さるほど固くはありません。
秋になると赤い実をつけます。実の直径は7~8mmほどで、木いっぱいに散らばるように実がつきます。子どものころ、この赤い実を摘み取って食べたことがある、という方も多いのではないでしょうか。

※イチイの赤い実はかつては民間薬としても利用されていましたが、中の種(ほか)にタキシンという毒が含まれているので、絶対に種を噛んだり飲みこんだりしてはいけません。

北海道では「オンコ」とよぶ。札幌と小樽には黄色い実をつける品種も

イチイは北海道では「オンコ」とよばれて親しまれています。一般家庭の庭によく植えられていて、松と違って手入れしやすいので、その家庭によって、丸かったり角ばったり、思い思いの形に刈り込まれていたりします。公園や街路樹などでもよく見かける、とても身近な木で、函館市や富良野市をはじめ、奥尻町やむかわ町など、道内の多くの市町村の木に指定されています。
秋に赤い実をつけるオンコですが、中には黄色い実をつけるオンコがあります。これは「キミノオンコ」とよばれ、北海道の札幌と小樽に生息する珍しい品種です。北海道で作成している植物のレッドリストには、キミノオンコは希少種とされています。

仁徳天皇から正一位という位を得た木。だから「イチイ」という名に

言い伝えによると、イチイの木を材とした笏(しゃく)を仁徳天皇に献上したところ、313年、同天皇がイチイの木に対し、笏をつくるに値する高貴な木であるとし、「正一位(しょういちい)」という最高位の位を授けたことから、「イチイ」とよばれるようになったといいます(諸説あります)。
笏とは、官位者などが束帯を着用したときに右手に持つ細長い棒状の板で、聖徳太子や、アニメのおじゃる丸が手に持っている、あの板です。
イチイの木は年輪の幅が狭く、緻密で狂いが生じにくく、また、艶と光沢があって美しいという特徴があるので、仁徳天皇に献上した笏も、見事な出来栄えだったのかもしれませんね。

参考
林産試験場:イチイ
北海道:北海道と道内各市町村の木と花をご紹介します
北海道:レッドリスト(植物)
第62回日本木材学会大会:北海道大学構内の樹木
北海道Likers:これ、なんていう? 北海道の公園で見かける「赤い実」の呼び名は…
森と水の郷あきた あきた森づくり活動サポートセンター総合情報サイト:樹木シリーズ176 イチイ
養命酒製造:生薬百選81 イチイ

三角錐に刈り込まれたイチイは、葉が深緑色、小さな赤い実が木いっぱい広がっていて、緑と赤のコントラストは、まるでクリスマスツリーのようにも見えます。 北海道は紅葉もそろそろ終わり、落ち葉の季節となってきました。その中で、生き生きとした緑色の葉をつける「オンコ」は、晩秋の北海道民の目を和ませてくれています。