七月に入り、各地で本格的な暑さが訪れます。旧暦では六月にあたり「水無月」と言われるゆえんも頷けます。ほかにも涼しい風を待つところから「風待月」、また「蝉羽月」は絽や紗の薄い透ける着物を着ることからつけられた異名もあります。蝉が鳴き始めるのもこの月。透きとおった蝉の羽を美しいと感じた昔の人の美意識も月の名に込められています。それでは七月の歳時記をめくっていきましょう!

晴れ間をみはからって天日干し!

自家製の梅干しにこだわっている方は七月にはいると、空を眺めながら天日干しの頃合いを考えはじめることでしょう。塩加減や紫蘇の量など自分の好みの味は大切にしたいものです。また調味料として万能な梅酢を取るのが楽しみ、という声も聞きます。一年を通して梅干しは日本の食卓には欠かせない食べ物。梅の皮が柔らかく仕上がる天日干しは大切な工程です。

「梅干して人は日陰にかくれけり」 中村汀女

一家の主婦の手ぎわの良さを感じる軽やかな句。ひと樽も漬ければ天日干しはけっこうな時間のかかる作業。そんな大変さを感じさせないのは、あとはお天道さまにお任せとばかりに日陰に引っこむ潔さでしょうか。梅雨の晴れ間の喜びも感じられます。

「動くたび干梅匂う夜の家」 鈴木六林男

男性の目からみた梅干しづくりでしょう。屋外で干していた梅をとりこみ、夜になって気づくと何とも言えない酸っぱい匂いを放っている。今年も美味しくできるといいなぁと楽しみにしている気持ちが伝わってきます。

こうしてできる1個の梅干しには、酸っぱさの中に健やかな幸せがつまっているに違いありません。

盂蘭盆会、日本人の情緒を実感する夏の行事です

夏になるとまず思い浮かべるのがこの盂蘭盆会ではないでしょうか。盂蘭盆会はお盆と呼ばれることが多く、新暦で行うところでは七月に、地域によっては旧暦で八月に行われます。

仏壇には精霊棚をしつらえ初物の野菜や果物、お菓子を供えて準備をします。心がほっこりするのが胡瓜と茄子でつくる精霊馬でしょう。ご先祖様に乗って頂くのは早く走りそうな細身の胡瓜の馬、そしてお帰りは名残惜しい思いを表したゆったり感のある茄子の牛。子供がこんな話をしてもらいながら作るところに、受け継がれる風習の良さを感じます。

始まりは夕刻に焚く迎え火や盆提灯でご先祖をお迎えします。お盆の間は家族や縁ある人々が集まりともどもに祖霊を供養し、まことの廻向をたむけます。生者と死者が心を通わせるお盆の風習は、先祖という確かな根っこにつながる自分に気づきます。そこから受け継がれていく命の大切さを、あらためて感じることができるのではないでしょうか。

お盆の終わりは火を焚いてお見送りをします。胡瓜の馬や茄子の牛、お供物を灯籠と一緒に川に流して見送るのが、灯籠流しまたは精霊流しです。ご先祖と心を通わせるお盆は、生きていく意味を見失いがちな現代にこそ大切に伝えていきたい夏の行事と思うのです。

灯籠流し
灯籠流し

「つるっ」と暑さを乗り越えていこう

暑さで食欲もなかなか進まない、そんな時に「ところてん」はいかがですか。海藻のテングサを煮溶かし型にいれ固めたものを、細長く切るために「ところてん突き」という道具で突き出します。たれは醤油と酢、薬味として辛子や青海苔をかけます。つるっと喉ごしがよいので夏の暑気払いにはおなじみです。

漢字では「心太」と書きます。由来は古く平安時代にはもう食べられていたようです。10世紀につくられた辞書『和名類聚抄』に「心太(ココロブト)」として海藻でつくった食品が記されています。海藻の名前が「凝海藻(コルモハ)」とあるところから、「凝」の字が「凝(こ)り固まる」「凝(こご)る」と読め「心」につながったのかもしれません。

室町時代には「ココロブト」が「ココロテイ」と読まれるようになり、やがて「ココロテン」さらに「トコロテン」と変化していったのではないかといわれています。

現在ではテングサなどを煮溶かして固めた後、凍らせ、さらに乾燥させた「寒天」が身近に利用されています。立方体のさいの目に切れば「みつ豆」や「あんみつ」としてもおなじみです。古くから日本人に食べ継がれ愛されてきた「心太」は暑い夏には強い味方になりそうです。

参考:
『日本国語大辞典』小学館