一年を通して雨が降る日本ですが、ことにこの時期はシトシトと降り続く雨の季節。秋のお米の収穫に向けて田には水が注がれ、育てられた苗を植えるために大切な「梅雨」。雨雲に覆われがちな空模様に気が滅入ってしまうことがあっても、お米のことを思えばやはり恵みの雨と納得します。雨の降る音も時と場所できっと千差万別。私たちにそなわっている五感をフルに働かせて梅雨を眺めてみれば、快適に過ごしていく知恵もわいてきそうです。

雨音には詩情やメロディがひそんでいる?

今年も梅雨の始まりをしらせる「入梅」を迎えます。
雨が降ってきた! 家の中にいると屋根や軒、ガラス窓にあたる音で雨と気づかされることが多くあります。外にいれば落ちてきた雨粒をポチッと受けとめた額や頬など身体で感じます。突然降り出した雨に、急ぎ傘をとり出し歩いていく中、傘にあたる雨の音がだんだん強くなるのを聞けば足も急ぎます。雨の音には意外に敏感なんですね。自然の中で雨音に耳を澄ませば、また違う音が聞こえてくるようです。

「山陰や葉広き蕗に雨の音」 闌更

雨が蕗の丸くて大きな葉を打つ、雨と蕗、ふたつの存在を感じさせるしっかりとした雨音が聞こえてきそうです。蕗の独特の匂いまでも立ちのぼらせるような力のある梅雨の情景が浮かんできます。

「雨音を消す若竹の茂りあひ」 野澤節子

こちらは竹藪でしょうか。竹が雨にうたれているのですが、もはや雨音は聞こえてきません。いつの間にかすっかり茂ってしまった竹の勢いに驚く作者の心が詠まれています。

雨の降るさまは表情も多彩です。雨が降り続けば軒先や木の枝から垂れるしずくの音もまたリズムを刻んでいて、耳を傾けてしまう雨音ではないでしょうか。とりとめも無くあれやこれやと心に浮かんでくることに思いをめぐらせていると、あっという間に時間も経ってしまいます。これもまたひと休みと考えれば、よい時間の過ごし方です。

雨が降っても外出しなければいけない時は、思いきって色どり豊かな傘やレインシューズを選ぶのはいかがでしょう。雨に濡れて色鮮やかに咲く花がみんなの目を楽しませるように、あなたの色はあなただけの楽しみを越えてきっと広がっていくことでしょう。

梅雨時でも香りでリフレッシュ、すっきり気分で!

雨が降り続くと肌にまとわりつくようなジメジメ感に気分がふさぐこともあります。気をつけたいのが食べ物の腐敗やカビ、食中毒でしょう。現在はエアコンでの除湿や換気、冷凍や冷蔵の設備が充分整っており、心配することは少なくなってきていますが、余分な水分を拭き取り湿気を残さない気配りを欠かさないこともポイントかもしれません。

今の時期に大いに利用したい香草に紫蘇(シソ)があります。効用は古く江戸時代、貝原益軒は「魚毒を去り香気あり」とその著書『大和本草』に記しています。当時は青ジソよりも赤紫色した赤ジソが主だったようです。益軒はシソについてさらに、たくさん採れた葉は日に干し味噌とあえて壺に保存して食欲増進に役立てるように、また穂や実まですべてを食べなさいと、シソの有用性を記しています。冷蔵といった保存手段が無かった当時、梅雨の時期に旬をむかえる赤ジソは食中毒をさける手軽な方法として大いに利用されていたことがわかります。

現在でも赤ジソは梅干し作りに利用されていますし、赤ジソの葉を乾燥したふりかけは、おにぎりやお弁当でおなじみです。また青ジソは通年をとおして栽培され店頭に並ぶようになりました。冷奴の薬味や、刺身に添えたり色取りとしてあしらったり、緑色が持つ力とともに効用は知らぬ間に受け継がれています。

ガラスの器に水を張り青ジソの葉を浮かせてテーブルに置いてみました。こんなことで食卓がリフレッシュしたように感じます。ささやかな葉っぱですが、植物の色や香りには私たちをいたわり助けてくれる力が色々とありそうです。

参考:
[中村学園大学 貝原益軒アーカイブ]
「大倭本艸巻之六 草之二 薬類」

雨の日だっていいこと、あるんです!

子供の頃、遠足や運動会の前の日に、てるてる坊主をこしらえてぶら下げた方も多いことでしょう。本当に真剣に願ったものです。つい晴れはいい日、雨はいやな日、という気持ちが先に立ってしまいがちですが「雨だっていい日になるんだね」という想い出はありませんか? ちょっと探してみました。

なんといっても一番は雨の日のお迎えではないでしょうか。ある友人は、急な雨に駅まで父親の迎えに行かされた子供の頃、大きな黒い長靴と傘を持って立っているのが恥ずかしく「嫌だなぁ」と思っていたそうです。でも、改札口を出てきた父親の顔がパッと笑顔になった時、それまでの恥ずかしさも忘れ、心から嬉しくなった、と教えてくれました。家族の心遣いはどんな時も嬉しいものですね。

また、傘を持たずに雨に降られた時、行こうかどうしようかと迷っていたら「よかったら駅まで」などと傘に入れて貰った経験はありませんか?ある友人は そんなシチュエーションに、若い時ゆえ「ドラマみたい」とドキドキしたそうです。ドラマとは違い何も起こらずに駅で「ありがとう」を言ってのお別れだったと、その人は言っていましたが、ホッと心の温まる雨の日のエピソードですね。「そんな時はもちろん、傘に入れて上げるよ」という人がたくさんいるのは嬉しいことです。

他にも、運動が好きではない人が「雨でマラソン大会が中止になって嬉しかった」とこっそり教えてくれたことがありました。多くの人が楽しみにしていると、なかなか本心が言えないのは辛いことかもしれません。でもその人の「助かったぁ」という心の叫びも、雨の日のいい想い出です。

これからおよそひと月半、雨とのおつき合いが続いていきます。時にはうっとうしくもなりますが、心を通わせれば温かい想い出にもつながっていきます。自然の中に生かされていることを思うと、降る雨を静かに受け入れていこうという気持ちにもなっていきます。今年はどんな雨音が聞こえてくるのでしょう? そう思って耳を澄ませてみませんか。