家を出れば必ず歩くのは道。先ずは駅へ向かって学校へ、職場へ、ショッピングへ。歩きやすく便利に整備され、日本中どこへでも行きたいところへ通じる道がある。この基となった「道路法」が成立したのが1919(大正8)年。同年日本で初めての道路整備計画が8月10日に実施されました。これを記念して国土交通省は1986(昭和61)年に8月10日を「道の日」と制定しました。

日々生活していく中に、あって当然、だからこそ見過ごしてしまっている「道」に関心を向け、役割や意味について考えてみませんか。今日あなたの歩く道はどんな道でしょう。

青空と白樺並木 北海道美瑛町
青空と白樺並木 北海道美瑛町

道はあって当たり前! 道ができるってどういうこと?

なぜ私たちは「道があるのは当然」と思っているのでしょうか? 言うまでも無く、それは日本という国がしっかりと存在しているからなのです。

道路の歴史は人類の歴史とともに始まりました。自然の中を人間が通る、獣が通る、やがて家畜を使って人や荷物を運ぶことで道は作られていきました。道路の歴史の中で革命ともいえるのは、紀元前3000年代頃に車輪の付いた荷車が発明されたことと言われています。古代中国、アッシリア、インド、ペルシアなどには人工的に作られた道路があったことも認められています。どの国も歴史の中に名を残す強く大きな国家をつくりあげて繁栄してきました。道路の発展は国の発展とともにあることがわかります。

日本でも奈良時代に律令制の始まりとともに畿内を中心に、七道駅路といわれる東西南北への道が整備されていきました。時代が下がり戦国の世では各大名が闘いのために道路整備を行いました。天下統一をめざした織田信長や豊臣秀吉の時代になると、道路が地域を結び、商業の繁栄をもたらすようになっていきます。更に江戸時代に入ると、江戸を起点に、東海道、甲州街道、中山道、奥州街道、日光街道と、今でもお馴染みの五街道が放射状に整備されていったのです。これらの街道は参勤交代を始め、江戸幕府の体制を支え、物流など経済の発展を促し、更には庶民を旅へ駆り立てるもととなりました。

道路の歴史を見ていくと、実は国の歴史と重なっていることがわかってきます。明治維新から始まった近代日本の国づくりのひとつが、1919年「道路法」の成立であり、道路整備計画の実施だったことがわかります。ちょっと地味な「道の日」ですが、国家の基と気づくとその大切さに襟を正す思いがしませんか。

参考:

武部健一著『道路の日本史』中公新書

国土交通省<道の歴史>

大阪府 東大阪ジャンクション
大阪府 東大阪ジャンクション

快適なドライブウェイ! 入りたいのは?…道の駅

20世紀になり世界を席巻したのがモータリゼーション。19世紀に始まった鉄道とは違って、どこへでも自由に行ける自動車は人間の冒険心を魅了し、未踏の地を開拓していきました。

日本でも戦後次々と道路整備が進み、自動車専用の高速道路も全国に広がり、物流の幹線となりました。道路と供に発展したのが長距離を走るドライバーのための休憩場所です。現在では「道の駅」としてひとときの憩いの場所から大いに発展し、人気の施設となっています。地域の特産品や観光資源を活用して観光客以外にも多くの人々を惹きつけるなど、地元産業の活性化をはかる拠点としての役割を担うようになりました。

同時に災害を想定した防災機能を持つ道の駅も計画されており、災害時には国や地方自治体と連携をとり、復旧や復興活動へ向けて整備を行う場所もでてきています。

私たちにとって道路はどんな時でもさまざまな機能が円滑に行われるように整備されていくことが大切なのだとわかります。

参考:

国土交通省<道の駅案内>

道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢(兵庫県)
道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢(兵庫県)

木々に囲まれて自然の中を歩きたい? そんなあなたに…自然歩道

旅は歩くことから始まりました! 旅の本といえば『東海道中膝栗毛』が思い出されます。この「膝栗毛」が「徒歩で」という意味になります。栗毛といえば馬のこと。ここでは栗毛の馬ではなく自分の膝を馬がわりに、というシャレが込められているのです。

東海道から伊勢神宮へむかう弥次さん喜多さんの旅のてんやわんやを描いた物語ですが、当時流行したお伊勢詣りの旅のハンドブックといった趣もありました。ふたりのふざけた行動が笑いをさそうと同時に、名所や名物が詳しく語られているのが特徴です。また府中では安倍川、丸子(まりこ)のとろろ汁、桑名といえば焼きはまぐりといった具合に、今でも名を馳せるご当地グルメの紹介もあり、大いに人気を博しました。

今では新幹線を使えば、あっという間に名古屋を経由して伊勢まで行けますが、こんな現代だからこそ時間をかけて歩いて旅したい、という人も増えてきています。

そんな人のために全国に「自然歩道」が整備されているのをご存じでしょうか。例えば関東地方でしたら一都六県にまたがる関東ふれあいの道があります。全長約1,800km、自然とともに歴史や文化遺産にも触れながらの徒歩の旅がぎっしり詰まっています。

昔の旅は身一つ、いわば命を賭けたものでもありました。旅を人生として生きた俳人松尾芭蕉の『奥の細道』には俳人らしい観察眼が紀行文の中に光っています。旅の一歩は自分の身体を運ぶとともに命を運ぶという思いがあったようです。

私たちにとって道は生活のなかの移動手段ということが大半ですが、ひとたび自然の中にポンと自分の身を置いてみたとき、前に続く道は今とは違うものに見えてくるかもしれません。もしかしたら誰も通らなかった道を今からあなたが切り開いていく、そんな可能性もあるのです。

今日は「道の日」いつも通っているあなたの道に、新しい何かを見つけられたら素敵です。

参考:

環境省<自然大好きクラブ>

東海道五十三次 丸子(まりこ)宿
東海道五十三次 丸子(まりこ)宿