ここ数年、毎年のように大雨や集中豪雨によって大規模な水害が発生し、その要因として「線状降水帯」という言葉が聞かれるようになりました。

今年6月より気象庁は新たに、世間に広く認知されつつある「線状降水帯」のキーワードを使用し、より危険を伝えるべく「顕著な大雨に関する情報」の運用を開始しています。

さて、毎年夏になると話題になる「線状降水帯」とはどういうものなのでしょうか?説明していきましょう。

線状降水帯の定義

線状降水帯の定義は、「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域。」とされています。

通常、積乱雲は雨を降らせると1時間程度で消滅してしまいます。

線状降水帯の場合でも同様で、1つ1つの積乱雲は雨を降らせるとたちまち消滅してしまいますが

次々と発生した積乱雲が、積乱雲群となって同じ場所を通過することで長時間の強雨をもたらし水害を発生させるのです。

線状降水帯の定義とは?
線状降水帯の定義とは?

線状降水帯(バックビルディング型)

線状降水帯は、その形成過程・構造によっていくつかの種類に分けられます。

ここではその中でも、長時間の大雨をもたらし災害に直結する恐れが特に高い「バックビルディング型」線状降水帯について説明します。

「バックビルディング型」線状降水帯の特徴として、地上付近の風(下層風)と上空の風(中層風)が同じ方角であることが挙げられます。 ① 暖かく湿った下層風(地上付近の風)が、山地や寒気と衝突して上昇し、積乱雲が発生

② ①で発生した積乱雲は上空の風に流され移動するが、その積乱雲からの下降流と下層風が衝突し、最初と同じ場所で再び積乱雲が発生

③ ②を繰り返すことで、最初の場所で次々と積乱雲が発生

④ 次々と発生した積乱雲は上空の風に流され、次々と同じ場所を通過していきながら衰退・消滅

①~④の結果、上空から見ると線状に連なる強い降水域が、同じ場所で停滞しているように映るのです。

2020年7月の線状降水帯の事例

①2020年7月の九州地方での線状降水帯発生事例[Youtube]

②2020年7月の九州地方での線状降水帯発生事例[Youtube]

①②は、2020年7月の九州地方で発生した線状降水帯の様子です。

球磨川の事例では、通常よりもかなり長い「11時間以上」も線状降水帯による降水が継続しています。

どちらの事例も、地上付近(下層風)では暖かく湿った西~南西風が流入しており、中層風も西~南西風であったためバックビルディング型の線状降水帯が発生したと考えられます。

2020年7月の雨雲の様子(九州地方)
2020年7月の雨雲の様子(九州地方)

顕著な大雨に関する気象情報について

2021年6月から運用開始となった「顕著な大雨に関する情報」は、上記のような「線状降水帯」と考えられる雨域が確認され、土砂災害・洪水災害の危険が急激に高まってきた際に発表されます。

注意してほしいのは、この情報が発表される時というのは「線状降水帯」が発生していると同時に「警戒レベル4相当」以上となっていることです。

「警戒レベル4相当」は、土砂キキクル(危険度分布)や洪水キキクル(危険度分布)が"極めて危険"などになっている状況で「線状降水帯」が発生せずとも、すでにかなり危険な状況を意味します。すなわち「線状降水帯」+「警戒レベル4相当」という状況の際には、すでに避難が完了している状態が望ましいと言えるでしょう。また、「警戒レベル3相当」以下であっても決して安全とは言えません。「線状降水帯」による多量の降水では、すぐに「警戒レベル4・5相当」へと状況が悪化することも考えられます。

雨の多いこれからの時期、常に最悪の状況を想定して動くことが命を守ることに繋がります。まずは、自分の身は自分で守れるよう、これら防災気象情報の意味を理解しておくことが大切です。

[参考]

土砂キキクル(危険度分布)

洪水キキクル(危険度分布)

顕著な大雨に関する気象情報

警戒レベルと防災気象情報(2021年5月20日に改定されました)
警戒レベルと防災気象情報(2021年5月20日に改定されました)