富士山の天気の傾向と特徴 雲を読むカギは「凝結」と「対流」 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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富士山の天気の傾向と特徴 雲を読むカギは「凝結」と「対流」

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山梨県のテレビニュースの天気コーナーでは、夏山シーズン中、富士山を含む山の天気予報を伝えるのが恒例となっています。ところが、私が気象キャスターに就任した昨年は、新型コロナの影響で富士山の登山は規制対象に。山の天気予報が放送されることはありませんでした。

今年は2年ぶりに富士山の登山道が解放される見通しのため、ようやく山の天気を伝える機会が巡ってきました。しかし、テレビのわずかな持ち時間で予報を伝えるには、富士山の天気はあまりに語ることが多すぎます。気象キャスターが何に着目し、富士山の天気をどのように捉えているのかについて、テレビより少しだけ深く紹介します。


富士山ってどんな山?

日本にある数えきれないほどの山岳の中で、やはり富士山は特殊な山だと感じます。国内の標高第2位の北岳を500m以上引き離す圧倒的な高さを誇るだけはなく、山麓から山頂まで左右対称なきれいな姿かたちをしています。また、風を乱すような他の高山とも離れています。このような条件は高層大気の観測にうってつけで、富士山は『天然の観測塔』と言われるほどです。山頂の測候所は、現在は研究目的でときどき使用されるのみですが、かつて気象庁の職員が常駐していました。富士山頂で観測された91.0メートルという最大瞬間風速の国内記録は、半世紀以上破られていません。

記録上、富士登山が最初にブームになったのは江戸時代の富士講です。江戸後期の都留郡の郷土史『隔掻録』によると、4つの登山口を合わせて年間1万6000人が登ったとあり、当時から吉田口八合目には山小屋が建ち並んでいたようです。ただ、ひとたび荒天ともなると登山は過酷を極め、突風に吹き飛ばされたり、凍死したりして亡くなった人の骨が路傍にそのままになっていたという記述があります。いつの時代も、登山の安全は天候次第ということでしょうか。『隔掻録』の著者自身は富士登山をしなかったため、富士山を地獄と表現しました。


富士山の登山シーズンが夏限定なのはなぜ?

富士山を地獄と言い切るのはさすがに登山をしない人の言い分だと思いますが、安全に富士登山を楽しむには荒天を回避するべきです。前回の「南アルプス編」で紹介したとおり、天気の変化は風向きの影響を大きく受けています。これは、富士山も例外ではありません。それどころか、どの山より高い富士山の天気は、上空の風の流れに敏感に反応します。

まず、上空のおおまかな風の流れを考えたとき、富士山の開山期間が7月上旬から9月上旬に定められているのは、安全上、理に適っているように感じます。「南アルプス編」でも紹介しましたが、日本列島は上空500hPaの風向きが南西からの流れのときに天気が崩れやすく、北西からの流れのときに天気が回復しやすい傾向があります。 この流れは上図のようにジェット気流に対応させることができます。これが秋から春の天気の基本の形です。一方、夏になるとジェット気流の走路が北上し、南から太平洋高気圧の勢力が広がっていきます。すると、それまでの南西流場や北西流場のモードから天気の傾向がガラリと変わり、夏らしい晴れ間がしばらく続くようになります。いわゆる梅雨明けから秋雨の間の期間です。気象予報士は、太平洋高気圧の目安として500hPaの5880mの等高度線を利用しています。ジェット気流が日本付近を通る春や秋、そして冬の富士山では、体が吹き飛ばされるような強風が吹く日が多く、山に慣れたクライマーやスキーヤーでも遭難事故に巻き込まれることがあります。一方、5880mの等高度線(=太平洋高気圧)に覆われる夏は、富士山でも風の弱い日が増えて、登山のしやすい環境が整います。もちろん、夏だから安全というわけではありませんが、ほかの季節に比べると、登山客に安全な登山環境が提供しやすい季節なのです。

5880mの等高度線は、真夏ならいつも日本を覆っているわけではなく、日々拡大と縮小を繰り返しています。5880mが一時的にしぼんで上空を気圧の谷が通過するような場面では、広い範囲で雷雨となることがあるので、注意が必要です。5880mの等高度線がしっかり日本を覆っている日を狙って日程を組むことで晴天率は高くなるでしょう。


富士山の天気のカギ握る 凝結と対流

もっと細かく富士山の天気を考えていきましょう。目立った低気圧が接近していない静穏時の雲の動きを観察すると、「凝結」と「対流」のふたつのキーワードが見えてきます。

冷たい飲み物の周りに結露が発生する場面を思い浮かべてください。気温が高いところでは、空気中にたくさんの水蒸気を抱え込むことができますが、冷やされると空気が抱えこめる水蒸気の量が減り、追い出された水蒸気が水滴を作ります。これを凝結といいます。雲のできるときにも、同じことが起きています。

凝結は気温の変化に伴って、日々起きています。例えば、富士山に登ってご来光を待っているとき、山麓を覆う低い雲を見たことがある人もいるでしょう。これは、夜間、気温が下がると凝結が起き、標高の低いところに雲が発生しているものと考えられます。この雲は雨あがりの翌朝にはいたるところに発生しますが、富士北麓には湖があるので、晴天が続いても比較的発生しやすいと思われます。静穏時の夜間は大気の状態が安定しているため、低い雲は縦に成長することはなく、日中気温が上昇すると大部分は霧散します。

一方、その日中、気温の上昇に伴って対流活動が活発になってくると、低いところにある空気が持ち上げられることで冷やされ、対流雲が発生します。こちらは地上が加熱されればされるほど雲が大きく、高く成長していきます。日本を覆う高気圧の勢力が強いと上空からの下降気流が効いて雲は発達しにくくなりますが、そうでないときは、昼過ぎには富士山を超えるような高さに成長し、連日ガスが発生します。ときには積乱雲に発達します。そんな日も日没とともに対流が弱まると、雲の成長はピークアウトし、夜は次第に晴れていきます。静穏時の富士山では、このような天気の変化を繰り返すことが多いと考えられます。

また、富士山名物の笠雲についても一言説明しておきましょう。笠雲は湿った空気の流れが山頂にぶつかることで生まれ、出現頻度は7月が高いといわれています。天気が崩れる前兆ともみなされますが、出現するには山頂近くが比較的安定した層になっている必要があるので、笠雲が見えている限り対流雲が発達することはなさそうです。ただ、笠雲がでているとせっかくの景色が見えないので、やはり登山者にとっては嬉しくない雲かもしれません。


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