サンカヨウという花をご存じですか。6月のこの時期に白い小さな花を咲かせますが、なんと、白い花びらが雨に濡れると透明になってしまうという、なんとも不思議な花なのです。でも、どうして濡れると透明になるのか、その仕組みはまだまだ謎だらけ。このミステリアスなサンカヨウ、いったいどんな花なのでしょうか。

森林の湿った草地に生息。ハスのような大きな葉と、白い小さな花

サンカヨウの葉はハスの葉のように大きいのが特徴。ハスは「荷葉(かよう)」ともよばれ、水辺で育ちますが、それに対しサンカヨウは、ハスの葉に似ていて山で育つからなのか、「山荷葉」と表記されます。

葉にはもうひとつ大きな特徴があります。それは、大きい葉と小さい葉がセットになっている、ということです。そして、必ず小さい葉のほうに花が咲きます。大きい葉のほうに花が咲いていれば、かなりのレアだとか。

水辺で育つハスと違ってサンカヨウは、森林周辺の湿った草地や、樹林の林下で白い花を咲かせます。北海道と、中部以北の本州に生息し、山の標高や雪解けの時期によって異なりますが、5月中旬から7月上旬にかけて見ごろをむかえます。

本州では鳥取の大山や烏ヶ山の周辺、島根の大万木山山頂付近、尾瀬、白神山地などで群生が見られるほか、北海道では札幌市内の砥石山などでも見られます。

普段は白い花びらだけど濡れると透明になる!! でも、出合うのは難しい

サンカヨウの最大の特徴は、雨に濡れると、それまで白かった花びらが透明になること。ただ、花びらが透明になった状態のサンカヨウを見るためには、いくつもの自然条件が重ならないと、なかなか出合うことができないようです。

まず、透明になるまでには、かなり長い時間、雨に濡れていなければならないこと。開花の時期と梅雨がちょうど重なれば、透明な花びらを見ることができるかもしれませんが、雨の少ない時期に開花を迎える地域では、ちょっと難しいかもしれません。

次に、サンカヨウの花が開いている期間がとても短いこと。咲いてから散るまでは1週間ほどしかありません。この1週間の間に雨が降らないと、透明にはなってくれません。

さらに、衝撃にとても弱いこと。少しの衝撃でもすぐに花びらが落ちてしまうので、花びらが落ちずに全部そろっている状態の期間がとても短いのです。そこに、激しいどしゃ降りの雨の滴がバチバチと当たってしまったら、せっかく透明になった花びらもすぐに落ちてしまうかもしれません。

このように、雨の時期と開花の時期が重なること、衝撃が加わらないことなど、透明な花びらがすべてそろった状態のサンカヨウに出合うには、いくつもの条件が必須となり、そのチャンスをつかむのはなかなか難しいといえそうです。

花びらがスケルトン! ガラス細工のよう
花びらがスケルトン! ガラス細工のよう

白い花が濡れると、なぜ透明になるのか。そのカギは光の乱反射

では、なぜサンカヨウは濡れると透明になるのでしょうか。これには、光が深く関わっているといわれています。

乾いているときのサンカヨウの花は白く見えますが、花びらはもともとが白いわけではなく、花びらの細胞の隙間に光が入り込み、光が散乱することによって白く見えるというのです。しかし、そこが水で満たされると光の散乱が起きなくなり、光は通り抜けてしまうので、透明に見えるのです。

食器などを覆うラップは透明ですが、クチャクチャと丸めると白っぽく見えます。しかし、その丸まったラップを水に入れると透明に見える、という現象にたとえられたりします。また、白いワイシャツを着ている人が雨にあたり水に濡れると、中が透けて見えたり、すりガラスが濡れると透明になる、という原理にたとえられたりもします。

すりガラスの場合、表面には目に見えない小さな凹凸があり、そこに光が当たると乱反射を起こして白く見えますが、ガラスが水に濡れると凹凸のある表面が水の膜に覆われて光を乱反射しなくなり、透明に見えるという現象です。

サンカヨウは、咲き始めた若いときではなく、そろそろ散るかも…という終わりかけのときのほうが、透明になりやすいといわれています。このように、透明のサンカヨウを見るためには、いくつもの自然のチャンスが重ならないと難しいといわれています。

やや終わりかけのほうが透明になりやすい
やや終わりかけのほうが透明になりやすい

青紫色の実がなる。やや大きめの実はインパクト大

夏を過ぎるころになると、サンカヨウの実が色づきはじめ、熟すとブルーベリーのような青紫色になります。実の大きさは2cmほどの楕円形。かなり大きいので目立ちます。それがさらに黒っぽくなると食べることもできるそうです。

参考

FNNプライムオンライン:濡れると透明になる花「サンカヨウ」が神秘的…なぜ白から変化? 2つの植物園に聞いた

東北森林管理局:サンカヨウ

島根県:県民の森/大万木山のサンカヨウ

白馬五竜高山植物園:濡れると透明に?サンカヨウの花について取材を受けました

森と水の郷あきた:山野の花シリーズ⑮サンカヨウ

レファレンス協同データベース:高山植物の「サンカヨウ(山荷葉)」の花は、雨などに濡れるとガラスのように透明になるが、この仕組みが知りたい。

雨上がりに山歩きをする予定がある方は、透明なサンカヨウにお目にかかることができるかもしれませんね。そして、もし出合えたとしたら、それはとてもラッキーなことだといえるでしょう。

白い花のときもかわいらしい
白い花のときもかわいらしい