陽射しに明るさが増し、春の気配が感じられるようになってきました。星空の世界でも、オリオン座、おおいぬ座、おうし座といった冬の星座の輝きも終盤を迎えています。

今回は、『ギリシア神話』や『枕草子』にも登場する「プレアデス星団」についてご紹介します。2月下旬から3月上旬は火星との接近もあり、観測には絶好の機会となります。

火星との最接近は3月4日。プレアデス星団が見頃です

冬の星座たちが西の空に傾きはじめ、そろそろ主役の座を明け渡す季節がやってきました。この時期に注目したいのは、おうし座に位置する「プレアデス星団」と火星の接近です。

2月下旬から3月上旬にかけて、夕方から深夜の西南西の空を眺めてみましょう。最接近は3月4日で、2月26日から3月10日頃までは双眼鏡の同一視野内で観測できます。赤く光る火星と滲んだように青白く輝くプレアデス星団の共演は、肉眼でも見ることができます。左手にはおうし座の1等星アルデバランがあり、火星の運行と合わせて2つの赤い星の共演も楽しみたいですね。

清少納言も愛した、神秘的な美しさ

冬の夜空を彩るおうし座は、構成する星々のなかに2つの星団がある特別な星座。雄牛の顔の部分にあたるV字型を形成しているのがヒアデス星団、雄牛の背中にあたる部分にあるのがプレアデス星団です。プレアデス星団は数百もの恒星が集まってできている散開星団で、肉眼で見ることができるのは6個ほどになります。

日本では「すばる」の呼び名で親しまれていますね。『枕草子』にも記されており、清少納言もその美しさを讃えています。「すばる」の語源は、「まとまってひとつになる」という意味をもつ「統ばる(すばる)」といわれています。多くの星が集まって輝いている様子を表す言葉として使われるようになったのですね。漢字では「昴」と書きますが、中国でプレアデス星団を指す「昴宿(ぼうしゅく)」という言葉から「昴」の字が当てられました。

地方によって「六連星(むつらぼし)」や「羽子板星」といった呼び名もあり、日本各地で多くの方言が発見されているそうです。「すばる」の神秘的な美しさは、古より人々の想像力を掻き立ててきたのです。

ギリシア神話に登場するプレアデス7人姉妹。オリオンとの関係は?

「プレアデス」は、ギリシア神話に登場する7人姉妹の女神にちなんで名付けられました。彼女たちは、巨人アトラスと海神オケアノスの娘プレイオネの間に生まれた子どもたちです。同じくおうし座にあるヒアデス星団もアトラスを父とする7人姉妹で、プレアデス姉妹とは異母姉妹にあたります。

プレアデス姉妹は月の女神アルテミスに仕える侍女でした。ある時、森で遊んでいる姉妹を見かけた狩人のオリオンは、彼女たちを気に入り後を追いかけていきました。その様子を目にしたアルテミスは、彼女たちを鳩の姿に変えて守りました。「プレアデス」とは、鳩の群れを意味する古代ギリシア語に由来するという説があります。

それでもオリオンが執拗に姉妹を追いかけるため、見かねた大神ゼウスは彼女たちを天上に輝く星にしました。しかし、オリオンもプレアデス近くの空に上げられてしまったため、今も姉妹たちを追いかけているかのように見えるのです。

ところで、7人姉妹のプレアデスですが、現在肉眼で見ることができるのは6つの星。日本でも「六連星」という呼び名がありましたね。昔は7つの星だったのに1つだけ見えなくなったという伝説が、世界各地で伝わっているそうです。ギリシア神話でも次女にあたるエレクトラが姿を隠したという説、もうひとつは末の妹のメローぺが身を引いたという説が伝えられています。

宝石にも例えられ、昔から世界中で愛されてきたプレアデス星団、すばる。肉眼で見ても美しいのですが、双眼鏡を使うと60~70個もの星々を見ることができます。火星との接近というイベントに合わせて、ぜひ観察の機会にしてみてはいかがでしょうか。

参考文献

『アストロガイド 星空年鑑 2021』 アストロアーツ

『星空ウォッチング』 沼澤茂美・脇屋奈々代 新星出版社

参考サイト

アストロアーツ 冬の星空を楽しもう