12月6日明け方近く「はやぶさ2」から分離されたカプセルが、火の玉のように輝き夜空に一筋の光跡を描きました。そのようすが報道されるや驚きと感動で多くの人々の目を釘付けにしました。今年は年明け早々から新型コロナウイルスの感染拡大に、地球全体が闘ってきました。下を向いてしまいがちな今、私たちの目は広がる宇宙へと向けられました。残り少なくなった2020年を心豊かに過ごし新しい年につなげられるよう、今日は目と心をう~んと大きく広げてみませんか。

「はやぶさ2」宇宙へ向かったのは2014年12月3日、6年も前のことでした

「はやぶさ2」は、打ち上げから3年半を経て2018年6月に小惑星リュウグウに到着。およそ1年3ヶ月にわたる探査を行った後、2019年11月に帰路に着きました。今回「はやぶさ2」が行ったミッションは、小惑星リュウグウ表面の物質をカプセルに取り地球へ届けることです。みごと6日にカプセルを地球へ帰還させた「はやぶさ2」の旅はおよそ52億km。しかしすでに次のミッションに向かって再び宇宙で飛行を続けていると聞き驚きました。

このカプセルを「玉手箱」といって満面の笑みを浮かべ語られたのが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の津田雄一教授です。今から約46億年前、太陽系が生まれた頃の水や有機物質がリュウグウに残されているのではないか、と研究者たちは考えているのです。カプセル内に取り込まれた物質を分析することで、太陽系の成立や地球での生命誕生といった多くの謎を解く貴重な手がかりを得られる可能性がある、と期待されています。

私たちも、大きな宇宙の中の一員だったと思い出させてくれました。同時に筆者は1冊の絵本を思い出したのです。観客となってお芝居を観るように、何十億年という長い時間を持つ宇宙、その中の地球、そこで生きてきた私たちの命のつながりを楽しく易しく見せてくれる絵本です。

絵本『せいめいのれきし』作ったのは絵が大好きなお母さん

作者のバージニア・リー・バートンは絵本『ちいさいおうち』でご存じの方も多いでしょう。『せいめいのれきし』は1962年にアメリカで刊行され、日本ではいしいももこさんが訳され2年後に出版されました。

プロローグから始まる5幕劇は太陽や地球、月が銀河系の中に生まれるところから始まります。海の底に生まれた生命がやがて地上にあがり多くの種類へと広がり、人類が登場し私たちが生きている現代までが雄大に上演されます。各場面でそれぞれの時代の主役たちが舞台に登場します。片隅には弁士が立ち、その時代の主役たちの活躍を時には大きなジェスチャーを交え雄弁に語りかけてくれます。長い間勢いを誇っていた動物や植物もやがては次の主役へその場を譲って退場していきます。生きものには栄枯盛衰があり、森羅万象すべてが時と共にうつろっていくことを事実として語っています。読者は巨大な宇宙に引きずりこまれ、暑さと寒さを経験し生命の進化の歴史の波に漂いながら現代へと辿り着きます。

こんなに広く長い歴史の中で「私」っていったい何かしら?

この絵本の素晴らしさは最後にあります。

「時は、いま。場所は、あなたのいるところ。はてしない時のくさりの、あたらしいわ(輪)」それがあなたひとりひとりなのですよ、と夜明けに昇る太陽の光が溢れる中でバージニアが語りかけ終わります。

今まで未知だった雄大な時の流れが、最後には読んでいる自分とカチッと結びつけられるのです。その瞬間だれもが宇宙の一員だったことにハッと気づき、自分の存在を改めて大切なものと感じるのではないでしょうか。

どの頁にも隅々まで目を向けてしまう魅力があります。作者の豊かな想像力と描写力が躍動感溢れる場面を作り出しているからでしょう。さらに何十億年の時の流れを支える事実の積み重ねです。

『せいめいのれきし』が刊行されて50年が過ぎたころ、最新の研究成果を踏まえた改訂版が、国立科学博物館の真鍋真氏の監修で2015年に出版され次世代へとつなげられました。ひとつひとつの事柄について詳しく説明された真鍋氏による本も大いに参考にして下さい。楽しさが深まります。

『せいめいのれきし』を読むと果てしなくくり返されてきた命の連鎖の奇蹟に思い至り、今直面している感染症もその一環なのだと理解できます。私たちの命の鎖の輪につながる新しい輪を確かなものにしていくのは、今の私たちの役目と感じませんか。土台となった長い歴史を誇りに心を明るく、前を向いて新しい年を迎えたいですね。

参考:

『せいめいのれきし』文・絵:バージニア・リー・バートン、いしいももこ訳、まなべまこと監修、岩波書店

『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』真鍋真著、岩波書店(岩波科学ライブラリー260)