雨が雪へと変わった「小雪」からいや増しに降り重なる「大雪」へ。すでに雪が降り積もっている地方もあることでしょう。12月にはいると日に日に寒さが増していくのを身体に感じています。自然界において寒さの到来は命をつなぐ闘いの始まりでもあります。今年は私たち人間も同じ。感染症対策を優先させ命を守る行動をとっていくことが重要です。歳時記をめくりながら「大雪」に先人が込めた思いを読みといてみたいと思います。

動物たちの冬は「冬眠」だけではありません。命をつなぎます

冬を越す方法として「冬眠」が知られています。昆虫や両生類、は虫類などの変温動物が代謝を下げて、地中や水底などの温度変化の少ないところで冬を越すことをいいますが、定温動物でもコウモリやシマリス、などが秋の実りを身体にたくわえ穴に籠もって春を待つ習性があります。熊はいつでも活動できるくらいに眠りが浅く、メスはこの間に出産し育児も行うということです。寒い冬ですが安全な穴の中で大切な子育てが行われるとはちょっと驚きではありませんか。熊の冬籠りは人間にとっても安全ということでしょう。この生態は「熊蟄穴(くまあなにこもる)」として「大雪」の次候に置かれています。動物の行動は自然の中で生きる人々にとって重要な現象なのだとわかります。

さらに末候に置かれたのが「鱖魚群(さけのうおむらがる)」です。川の上流で生まれる鮭は雪解けになると川を下り海へ出ていきます。一生のほとんどは海で過ごしますが、数年後には産卵のために群れをなして生まれた川に命をつなぐために戻ってくるわけです。

動物たちの生態は生きるために取捨選択し蓄積してきたものが本能として働き、季節の移り変わりの中で自分たちの役割を忠実に全うすることなのですね。生き残る強さは何代にもわたって作られてきたのだと感じます。

木々たちの越冬。葉を落として冬ざれの中で何を目指す?

冬の寒さに息を潜めるのは動物たちだけではありません。木々が葉を落として裸木となり立つさまや、吹く風にさらされ枯れはてた野原の寂しさは、無言に成長を止めて来たるべき春をじっと待っている姿に見えませんか。人々も冬の寒さや雪に閉ざされた間は動き回らず閉じこもって過ごしてきました。「冬籠り」です。静かで寂しげな感じですが、和歌を読んでいると「冬籠り」とはいいながらも心には「春」を思い浮かべていたのだとわかります。古今和歌集からふたつの歌を引きましょう。

「雪降れば冬ごもりせる草も木も春に知られぬ花ぞ咲きける」 紀貫之

「雪降れば木毎に花ぞ咲きにけるいづれを梅と分きて折らまし」紀友則

目にしている景色は雪景色ですが、積もる雪をどちらも花に見立てているのです。つまり心に浮かべているのは春の情景なのですね。従兄弟同士のふたりはともに三十六歌仙に選ばれた歌人。和歌の技巧もあるかもしれませんが、寒さの中に明るく先を見ていこうとする心の豊かさを感じずにはいられません。日本の文化は季節を先取りしていくところがありますが、気持ちを前向きにもっていく、と考えると今の私たちもぜひ見習いたいと思いませんか。

動物も植物も全力で冬に向かっている今、私たち人間はどう過ごしましょうか?

動物たちの冬への準備が記された歳時記を読んで、私たち人間の冬の越し方も何か工夫をしていきたいと思いませんか。科学技術を手に入れいつでもどこでも便利で自由な文化を謳歌してきましたが、この冬はコロナウイルスの広がりとともにインフルエンザの感染も懸念されています。今年は、自然界の動物や植物の姿から冬の過ごし方を少し見習って、感染拡大を防ぐことに取り組んでみるのはいかがでしょう。

新しい「冬籠り」はこれからも役立つ知恵となる筈です。マスクをする、密を避ける、手洗い消毒をこまめにするなど、できることは単純で変わりませんが続けていくことが大事でしょう。必要な物を用意しながら静かに過ごす冬。立ち止まることで新しい発見ができるかもしれません。もう今までのステイホームでその種を見つけている方もいらっしゃるのではありませんか? またはステイホームに飽きている方も、もうひと頑張り、始まった冬の後に必ず春はやって来ます。人間も今こそ力を発揮して危機を協力して乗り越えていきましょう。