秋といえばやっぱりお月見! と思いますよね。澄んだ夜空にお月さまが美しく輝くこの季節、地上では稲刈りが行われ畑の作物や木々に成った実が収穫される時です。木の葉も染まりはじめ自然は彩りに満ちていきます。秋の深まりは実りの豊かさを喜ぶとき。感謝をお月さまに捧げ、共に喜ぶのがお月見なのでしょう。収穫の恩恵にあずかる私たちもお月見をすることでありがとうの気持ちを表していければ嬉しいですね。

お月見は3回いたしましょう。それは収穫への感謝の心

まずは今年のお月見の日程です。

十五夜は10月1日、十三夜は10月29日、十日夜(とおかんや)は11月24日です。3回きれいなお月さまが見られれば縁起がいいと昔から伝えられています。お天気に3回恵まれるのは本当に幸運なことですから、今年はぜひお月さまに良い縁を託してまいりましょう。

3回のお月見にはそれぞれ意味があるんです。

十五夜は旧暦の8月15日の満月、中秋の名月はお月さまが一番きれいに見える時といわれています。平安時代は貴族たちが中国から伝わったお月見を雅びな宴を催して楽しんでいましたが、やがて庶民の間に広まると秋の実りへの感謝へと変わっていきました。庶民らしさはサトイモの新芋をそなえたことから「芋名月」という名に表れています。

十三夜は旧暦の9月13日。こちらは「栗名月」や「豆名月」といわれ収穫された栗や豆をお供えしました。

十日夜は旧暦の10月10日。もうこの頃になると全ての収穫は終わり、田の神様に山へお帰りになっていただくお祭りになっていきます。案山子も役目を終えて田んぼから引きあげられます。いよいよ冬支度というわけです。庶民に広がったお月見は秋の収穫への感謝を表す行事として親しまれているのですね。

十五夜だけでなく身近な芋や栗、豆を使った料理を供えて、十三夜や十日夜で今年の恵みに感謝をしていくのも、心豊かなお月見になりますね。

十三夜の月
十三夜の月

仏道修行にお月さまも一役買っています

夜空に輝く月を見つけると思わず嬉しくなって眺めてしまいませんか。そして「ほら、お月さまがきれい」と誰かに教えてあげたくなります。美しさを共有して嬉しさのお裾分けをしたいのです。満月の清らかな美しさを自己の心のあり方として胸中に思い描き自己を見つめ、本来心とは清浄であり円満であることを体得する「月輪観(がちりんかん)」という仏教の修行があります。平安時代の終わり頃、真言密教の僧である興教大師(こうぎょうだいし)、覚鑁(かくばん)が始まりと言われています。

月の清浄なるがごとく自心も無垢なり

月の円満なるがごとく自心も欠くることなし

月の潔白なるがごとく自心も白法なり

仏道修行というと難しそうですが、優しい言葉で言い直すと私たちの心にもスーッと入ってきませんか。あの満月の美しいお月さまを知っているから誰にでも納得できるのでしょう。満月を見ると辛いことや苦しいことがあってもフッと忘れて幸せな気分になります。そんな時にこの言葉を思い出すと心が洗われて、一瞬ですが仏道修行に立ち会ったようなすっきりとした気持ちになれるのは、覚鑁上人の御利益かもしれません。

お月見は心を清らかにする、そんな力もあったのですね。

満月や三日月だけではない、微妙なお月さまの形を見逃すな!

お月さまは日々形を変えて姿を現し、ほぼ30日でひとめぐり。

「二日月(ふつかづき)」は新月の翌日の月。二日月の美しさは生まれたての繊細さです。夕方の残照に乗せられて出てきたように西の空に細く光ります。本当に細い細いお月さまですが、輝きが弧の美しさを際立たせます。細い弧の丸みを見ていると隠れているお月さまも何となく見えてくるような気がしてきます。二日月は太陽が沈むとやがて沈んでしまいますから、見逃さないようにしてくださいね。

もう一つは欠けていくお月さま、昔から歌にも詠われてきた「有明の月」です。16日目の「十六夜(いざよい)」以降の月を有明の月と呼んでいますが、夜明け近くに月が残っている空のようすもさしているのです。平安時代の通い婚で夜が明けるころは、男性が女性の家から帰らなくてはならないきぬぎぬの別れの時。その時空にあるのが有明の月ということで、恋人との別れの嘆きがこの月にはこめられているのです。

「有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり うきものはなし」壬生忠岑

さて、つれなく見えたのはお月さまでしょうか、それとも今別れてきた女性の方でしょうか、あなたはどう思われますか。

秋はお月さまの輝きがいっそう美しく見える季節です。家で過ごす時間が多くなっている今年は、お団子を作ったり芋や豆、栗などでゆっくりとお月見をしてみませんか。世界中誰もが見ているお月さま、まだまだ医療現場では大変な時が続いています。このようなときだからこそ、お月さまを通して感謝の思いをみんなで伝え合えたら、お互いに行き来はできなくても心は通じ合えるのではないでしょうか。さまざまな気持ちを持ってお月見をたのしみたいですね。

参考:

林完次監修『月とこよみの本』宝島社

「真乗」刊行会編『真乗 心に仏を刻む』中央公論新社

細い、細いお月さま
細い、細いお月さま