神社の重要な行事、秋の例大祭の季節がやってきました。

日本には「八百万の神」という概念があり、全国にはさまざまな神々をまつる神社がありますね。そのなかで最も多いのが、「八幡神(やはたのかみ、はちまんしん)」をご祭神とする八幡神社です。ところで、「八幡さま」とはどのような神さまなのでしょうか。

今回は、ご祭神から見る神社の種類と、八幡信仰の重要な儀式「放生会(ほうじょうえ)」についてご紹介します。

興味深い!神社の分類と神さまの系統

初詣や合格祈願、お宮参り、七五三など、節目に訪れる機会の多い神社。名称は八幡神社、天神神社、稲荷神社、諏訪神社などさまざまで、ご祭神も多岐にわたります。神社本庁の「全国神社祭祀祭礼総合調査」によると、八幡神社や八幡宮、若宮神社などの八幡信仰に関わるものが最も多く、その次が伊勢信仰(神明社、神明宮、皇大神社、伊勢神宮)、3番目が天神信仰(天満宮、天神社、北野神社)、次いで、稲荷信仰(稲荷神社、宇賀神社、稲荷社)という結果になっています。

神道の神々に目を向けると、その系統は主に3種類に分けられます。天照大神に代表される「日本書紀」や「古事記」に登場する神話における神々、一方で神話には登場せずに新たにまつられた神々も多く、八幡神はこちらに当たります。菅原道真の天神信仰など、歴史上の人物が神としてまつられるケースもあります。神話に登場せず、実在の偉人でないにも関わらず、全国で多大な信仰を集める八幡神とはどのような神なのでしょうか。さっそく紐解いてみましょう。

八幡さまは、土着神であり天皇の化身でもある

八幡神は、元々は大漁旗を意味する海神といわれ、神社では誉田別尊(ほんだわけのみこと)、あるいは応神天皇(おうじんてんのう)の祭神名でまつられています。大分県の宇佐氏が崇敬した地方神でしたが、ご神託を通じて第15代天皇である応神天皇の化身とされ、土着的な神と天皇のご神霊が結びついた特別な性格を持ちあわせているのです。

応神天皇は弓術の達人とされており、武の神や出世開運の神として崇められていました。平安時代には、天皇家を祖とする清和源氏が京都の石清水八幡宮を氏神としたことで、武勇の神として多くの武士からの信仰を集め、一般の信仰の対象としても広まっていきました。

八幡神は571年に宇佐の地にはじめて示顕(じげん)したと伝えられ、宇佐神宮(大分県宇佐市)は八幡宮の総本宮です。石清水八幡宮(京都府八幡市)、筥崎宮(はこざきぐう、福岡県福岡市)、または鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市)をあわせて、日本三大八幡宮とされています。

生きとし生けるものの平安と幸福を願う「放生会」

放生会は、全国の八幡神社で行われる伝統的な秋季例祭。殺生を戒める仏教の教えにより、捕獲された鳥や魚、虫などの生き物を自然に放って供養する儀式です。古来より日本人は、生き物には霊が宿っていると考えてきました。その供養を行なって功徳をつむことは、古より受け継がれてきたのです。

放生会の由来は720年に起きた「隼人の反乱」にさかのぼります。鎮圧された隼人の霊を慰めるために宇佐神宮ではじまり、全国各地に広まったといわれています。かつては旧暦8月15日に行われていましたが、現在は新暦にあらためて9月15日前後に斎行している社が多くみられます。石清水八幡宮の「石清水祭」は9月15日、筥崎宮「放生会供養祈願祭」は9月12〜18日、9月14〜16日にかけての「鶴岡八幡宮例大祭」では、16日に鈴虫放生祭が執り行われます。宇佐神宮では、奈良時代より明治13(1880)年まで「放生会」と呼ばれていましたが、以後「仲秋祭」と名称が変更になりました。日程も毎年10月第2土曜日から月曜日までの3日間となっています。

放生という仏教的思想と、殺生の宿命を負った武神としての八幡神。ふたつの相反する概念の融合である放生会は、神仏習合という日本独自の宗教観が成立する発端になったともいわれています。2020年は放生会の由来から1300年となる節目の年でもありますね。放生会には、生きとし生けるものすべての平安と幸福を願うという意味合いがあります。日本独自の宗教観と生命そのものに対する慈しみの心が、八幡さまをより身近な存在にしているのかもしれません。

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※お出かけの際は、各施設、イベントの公式ホームページで最新の情報をご確認ください。

参考文献

岡田芳朗・松井吉昭 『年中行事読本』創元社

島田裕巳『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』幻冬社

参考サイト

宇佐神社

石清水八幡宮

筥崎宮

鶴岡八幡宮